Episode05 少年の心
「あんたさ、ハンバーガー作ってみる?」
少女の言葉に、私は1も2もなく頷いた。 客のいない、真夏の昼下がりのことである。
まあ実際やってみたら少女のようにうまくいかず、パテを5枚も焦がしてしまったのだが。
「私はハンバーガーを作る才能がないのだろうか?」
「あんたでも、凹むことあるんだ」
うなだれた私を、少女は笑う。
「安心しなよ、私も最初はこんなだったから」
「今の君からは想像できないが」
「死んだ父さんにつきっきりで教えてもらってさ、それでも一人前って言われるまで1年もかかった」
「そうか、武術の鍛錬と同じなのだな。何事も精進が必要というわけだ」
「・・・もしも、だけど」
私のこがしたパテを鉄板からはがしながら、少女はがらにもないか細い声で続ける。
「あんたが、ずっとここにいるって言うなら、教えてあげてもいいよ」
いやじゃなければ。と少女が続けた。
もちろん嫌なわけがない。むしろ、非常に喜ばしい事だ。
「君のような職人に私もなりたい。ハンバーガーは今や私の命だ」
「なにそれ」
「教えてほしい。なにもかもを」
私が少女の手を取ると、彼女は笑った。
「そんな子供みたいなキラキラした目でみられたら、教えないわけにはいかないか」
「では、今日からあなたは私の師匠だな」
「なにそれ、マスターオビワンみたいな?あんたスターウォーズオタク?ますます子供っぽいよ」
「子供っぽいという敬称ははじめてだ」
「いいんじゃないの?少年の心を持った魔王ってのも」
師匠はそう言うと、早速私にハンバーガーの作り方の手ほどきをしてくれた。