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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と勇者と恋の章
58/102

Episode52 協力

 勇者殿がこちらの世界に来て早1週間。

 しかし残念ながら、相変わらず師匠と勇者殿の溝は埋まらない。

 もはや二人の喧嘩は、毎日の恒例行事になってしまっている。

「もう限界…もう耐えられない……。すぐ、今すぐその鎧を脱いで風呂に入って!」

「敵前で防具を外せというのか貴様! これだけは、この鎧だけは死んでも脱がぬ!」

「じゃあ今日こそ出てってよ!」

「元々長居をするつもりはない! 魔王の首をくれるなら今すぐ出て行ってやる!」

「とか言って、ここ一週間はテレビ見ながらゴロゴロしてばっかりじゃない!」

「そっそれは聖剣が折れてしまったから仕方なく…」

「当初の目的を忘れて、うっかり恋愛ドラマにハマッってるの知ってるんだからね!」

「はまってなどいない、私はただ参考に……」

「ついでに言うと、ケリーお婆ちゃんに片思い中なのも、相手にされないのも知ってるんだから!」

 そしてこの日も、師匠の一言によって喧嘩は終わりを迎える。

 魔王を倒すほどの実力を持つ勇者殿であっても、やはり師匠には叶わない。

 今のところ口げんかは勇者殿の全敗で、そのたびに彼は悔しそうに顔をゆがめるのだ。

 そしていつもなら、彼は泣きそうな顔で師匠を睨んだ後、意地になってバスルームに立てこもる。

 だが今日は、最愛のケリーの名を出されて相当悔しかったのだろう。

 ついに勇者殿は全てのプライドをかなぐり捨て、私を見たのだ。「協力しろ」という眼差しで。

 勇者殿に助力を求められた魔王は、きっと私が初めてだろう。これは非常に光栄なことである。

「いくら何でも今のは酷い。勇者殿の恋は本気なのだ」

「なによ、あんたもこいつの味方なわけ!」

「たしかに勇者殿のニオイは最悪だ。何せあのケリーが死んでも近づきたくないと言うほどだ。だが聖剣が折れた今、勇者殿のアイデンティティーはあの臭くて汚い鎧だけなのだ」

 私がそう言うと、勇者殿が息をのんだ。

 たぶん助けを求めつつも、魔王である私が、自分のフォローをするとは思っていなかったのだろう。

「私にとって師匠が無くてはならない存在であるように、勇者殿にはあの鎧が必要なのだ。命より大切で常に側に置きたい物なのだ。その所為で周囲の人間全てから『絶対近づきたくない』と思われても構わないほどに」

 その後もあの鎧の大切さを熱く語れば、ついに師匠が「本当に大切なら仕方ない」と折れた。

 勇者殿でも勝てない師匠に勝てた。

 その事実に私は誰よりも驚き、そして勇者殿と共に勝利の喜びを分かち合おうとした。

 だが振り返ったそこに、勇者殿の姿はなかった。

 かわりに、いつの間にかバスルームの扉が閉じている。

「せっかく師匠の許しが出たのに、勇者殿はまた籠もってしまったのか?」

「あんたのお陰で現実が見えたんでしょ」

 どういう意味だと尋ねた私の肩を叩き、「協力ありがとう」と師匠が笑う。

 私が協力したのは勇者殿のはずだったのに、何故師匠は礼を言うのだろうか。

 そう考えていると、どこからともなく石鹸の香りが漂ってきた。

 そこで私ははたと気付く。

 もし勇者殿が帰ってきたら、体臭を石鹸に香りに変える魔法を使おう。そうすればきっと、師匠もケリーも彼のニオイに顔をしかめることはない。

 我ながら良い案が思いついたと喜びつつ、私は勇者殿が出てくるのを待つことにした。

 きっとこれで、勇者殿も私を見直してくれることだろう。

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