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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と勇者と恋の章
57/102

Episode51 オフショット

 今朝もまた、我が家には罵声が飛び交っている。

 原因は先日ひょっこり現れた勇者殿と、それを家に泊めたいと申し出た私だった。

 行くところも帰る術もないという勇者殿が放っておけず、師匠に無理を言って家に置いて貰ったのだが、残念な事に師匠と勇者殿はあまり相性が良くないようなのだ。

 その上勇者殿は師匠に殺されかけたことを根に持っており、師匠は勇者殿が私を殺したことを根に持っている。

 別にどちらも大したことではないと思うのだが、二人はそうは思えないらしい。

 それ故、二人は事あるごとに喧嘩をしているのだ。それも割と些細なことで。

「わしは目玉焼きの黄身は堅い方が好きなんじゃ!」

「だったら自分で作りなさいよ!」

「わしは勇者だぞ! 料理などはせぬ!」

「じゃあ文句言わずに食べて!」

「こんなグジュグジュの黄身は嫌じゃ!」

 そんなやり取りを聞きながらリビングに顔を出せば、勇者殿の投げた目玉焼きが師匠の顔にぶち当たるところだった。

 これはまずい。非常にまずい。

 そう思って師匠を羽交い締めにすれば、彼女は手にしていた熱々のフライパンを振りまわしながらあいつを殺すと喚いている。

 さすがの勇者殿も、師匠のフライパンの恐ろしさを知っている故この場は引き下がったが、やはりこれはまずい。

 このままでは、師匠が勇者を殺すのは時間の問題だろう。

 勇者殿を家に置いて欲しいと言ったのは私だ。ならば二人の仲を取り持つのは、私の義務。

 それに全ての諍いの根っこにあるのは、私と勇者殿の間に横たわる深い溝だ。

 これを無くし彼の警戒心が解ければ、師匠にも優しく接して貰えるかもしれない。

 そう決意した私は、師匠が寝静まった深夜、勇者と語らいの時間を持つことにした。

「まあ、とりあえず飲んでくれ」

 まずは仲直りの印にとシェイクを差し出すと、勇者はそれを怪訝な顔で見た。

「毒入りか?」

「いや、バナナとアイスクリームとミルクが入っている」

 真面目に答えると、勇者殿は酷く怪訝そうな顔で私を見つめた。

「貴様、以前と雰囲気がずいぶん変わったな」

「師匠のお陰だ。彼女が、私を変えてくれた」

「魔王が人の女に惚れるなんてあり得ん」

「惚れてはいない、好きなだけだ」

「惚れるのと好きは同じだぞ」

「そうなのか?」

 それは是非詳細を聞かねばと思ったが、何故だか勇者殿は不機嫌な表情になってしまった。

「私に聞くな。お前の所為で、恋には縁がない人生だったんだ」

「もしかして独り身なのか? それは寂しいな」

「お前に言われたくない!」

 ドンと机を叩き、勇者は悔しそうに頭を抱える。

 やはり、勇者と私の間の溝を埋めるのは簡単ではないようだ。

 しかたなく、私は考えを改めた。

 私を好きになって貰うのは無理だが、彼に師匠の良さを知って貰う事なら出来ると思ったのだ。

「私を恨むのはわかる。しかし師匠にはあまり当たらないでくれ」

「あの小娘は礼儀がなっていない! わしは勇者なのに、敬おうともしない!」

「彼女は肩書きや立場で人を計らない。しかしそこが、彼女の良さだ」

 その後も師匠の良さを語っては見たが、残念ながら勇者殿の心にはあまり響いていないらしい。

 こうなれば、語るより見せた方が良いだろう。

「魔王が好きになるほどの女性だ、心を開けばきっと貴方も好きになる」

 そう言って私が勇者の前に広げたのは、私がコレクションしている師匠の写真だ。

「今度は何だ」

「師匠がどれくらい可愛くて素敵か貴方に知って貰おうと思って」

「さっきの褒め殺しもそうだが、これはのろけか! 貴様のろけか!」

 のろけがなんだかはよくわからなかったが、尋ねても勇者殿は答えてくれなかった。

 なので仕方なく、写真の中でも特に写りが良い物選んで、私はそれを差し出す。

「自然な笑顔が素敵だろう。友人に隠し撮りのやり方を教わって、こんなに綺麗に撮れるようになったのだ」

 オフショットという奴だと胸を張ったとき、突然勇者が一枚の写真に目をとめた。

「うっ美しい!」

「そうだろう」

「ちがう、こちらのご婦人だ!」

 そう言って勇者が指さしたのは、師匠と並んで写っているケリーである。

「彼女は隣の家にすむ私の友人だ。私と師匠のことを子どものように可愛がってくれている」

「魔王を子どものように……なんてお人だ……」

「良かったら明日会いに行くか? 丁度クッキーをもらいに行く日なんだ」

「まっ、魔王の手など借りぬ!」

「なら玄関の横にある小さなボタンを押すと良いぞ、それを押すとケリーが出てきてくれる」

「ドアベルくらい私の世界にもある!」

「そうなのか? 私の城にはなかったから、てっきりこの世界の物だと思っていた」

 どうやら私は、想像以上に私の世界のことを知らないらしい。

「そうだ、良ければ元の世界のことを聞かせてくれ! 師匠や友人達に色々質問されるのだが、私には答えられないのだ」

 そう言うと、何故だか勇者はとても悲しげな顔で私を見た。

「ダメか?」

 それでも頼めば、勇者は降参だと手を挙げる

「花屋の場所を教えるなら、考えよう」

 出された交換条件に、私は大きく頷いた。

 そして私は、勇者の家がどんな作りであるかを知った。

 師匠に家には劣るが、とても住みやすそうな家であると告げると、「お前のお陰でわしは金持ちだからな」と勇者は得意げに笑った。

 彼の役に立てたのなら、私の死も無駄ではなかったのだろう。

 それが嬉しくて、バナナシェイクにホイップクリームを足せば、勇者はようやく口を付けてくれた。

「美味いな」

 その言葉は、なんだか私の心をとても温かくしてくれた。

 それが嬉しくて微笑んでいると、勇者もほんの少しだけ笑ってくれる。

 だがそこに、タイミングが悪く師匠が起きてきてしまった。

「二人で何か企んでるの?」

 多分冗談のつもりで言った言葉なのだろう。しかしそうとも知らない勇者殿は、またしてもけんか腰な否定の言葉をぶつけてしまう。

 お陰でまたもや二人は口論を始め、何故だか最後は私が手ひどく殴られた。

 前途多難である。

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