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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王とサンタの章
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Episode50 仲間入り

 その日、私と師匠はダイナーから初日の出という物を見ていた。

 この世界では年の移りかわりは喜ぶべき事らしく、昨日は夕方から馴染みの常連客や近所の人たちを家に呼んでパーティーをしていた。

 だが明け方前に突然、師匠が二人で朝日を見たいと言い出したのだ。

「別に今日でなくても、朝日は毎日登るぞ?」

「でも今日は特別なの」

 その上静かな場所で、それも二人きりで見たいと師匠は言う。

 特別な日である所為か、そう言う師匠は凄く可愛らしく見えて、私は急いで車を飛ばし、このダイナーまで来たのだ。

「師匠」

「何?」

「年が変わっても、朝日の上り方や輝きは同じなんだな」

「普通は変わらないわよ」

「私のいた世界では良く変わるぞ」

「じゃあこの世界の朝日はつまらないかもね」

 窓際のボックス席に二人で寄り添うように座り、眺めた朝日は確かにいつもと同じだ。

 しかしだからこそ、美しいと私は思う。

「でも今日は元旦だし、特別って感じがしない?」

「私にとっては毎日が特別だ」

「大げさね」

「大げさではない。この世界は見る物全てが美しく、そして私を満たしてくれる」

 中でも師匠がと告げると、彼女は私の腕の中でくすぐったそうに笑った。

「あんたを満たしてるのは、私じゃなくて私の作るハンバーガーでしょう」

「そう言われるとハンバーガーが食べたくなってくるな」

「材料持ってきたから、作ろうか」

「いいのか?」

「私が今年最初に作るハンバーガー、食べたくない?」

 食べたいと声を上げれば、師匠が笑顔で厨房に入っていく。

 本当に私は幸せ者だ。むしろ魔王なのに幸せになって申し訳ないくらいである。

 そう思いつつ、せっかくなので自分も飲み物を作ろうとしたとき、私は朝日を背にこちらへと歩いてくる人影があることに気がついた。

 こんな早朝に、荒野を徒歩で横断するなど無謀だ。そのうえ近づいてくる人影をよく見ると、何とそれは老人だった。

 無謀どころか自殺行為である。

 私があわてて外に駆け出すと、老人は私の目の前で力尽きてしまった。

 倒れる老人を抱き起こし、私は彼に声をかける。

 弱々しく目を開ける老人。それに私はホッとしたが、何故だか老人は私を見て驚愕の表情を浮かべた。

 その上老人は持っていた剣で私の腕を切り裂いた。痛みと、そしてこの世界では馴染みのない老人の武器には覚えがある。

「何故貴様が生きている!」

 死んだようだった老人は立ち上がり、剣を構えて私から距離を取った。

「……まさか、貴方は勇者か?」

「年は取ったが、まだ現役じゃ!」

 足は子鹿のようにぷるぷる震えているし、剣を持つ腕は木の枝よりも細かったが、確かに纏う魔力は勇者のそれである。

 それに気付いた瞬間、私は絶望した。

 やはり全ては仮初めの幸せだったのだ。私は勇者に滅ぼされる運命からは逃れられない。

「私を殺しに来たのか」

「…そんなところだ」

 剣を向けられただけで、奪われていく私の魔力。

 やはり老いていても、立ち方が子鹿でも老人は勇者だった。

 心の中に「我を解き放て」と絶叫する魔剣の声が聞こえたが、ここで聖剣と魔剣が打ち合えばダイナーがタダではすまない。

 それだけは、師匠と師匠のダイナーが傷つくことだけはあってはならない。

「覚悟しろ、魔王!」

「覚悟なんてとうの昔に出来ている。やるならすぐに殺せ、だがそこの店とその亭主だけは決して傷つけるな」

「お前の配下か?」

「関係のない人間だ」

 師匠に危害が及ばぬよう、操っていたと嘘をつけば勇者は信じたようだった。

「ならば死ぬのはお主だけだ!」

 勇者が剣を振り上げると、その美しき白銀の刃が朝日を浴びて赤く輝く。

 この美しき光に斬られるなら悪くない。

 そう思いながら私は目を閉じ、そのときを待った。

 ……だが、直後に響いたのは骨と肉を断ち切る音ではなく、酷く重い衝撃音である。

 一向に訪れない痛みを怪訝に重い、私は恐る恐る目を開ける。

 するとそこには、フライパンを手にした師匠と、その前に倒れている勇者の姿があった。

「魔王、すぐ警察に連絡!」

 ただ者ではないと思っていたが、まさか勇者を倒すほどの実力があるとは驚きである。むしろ少し恐ろしいくらいである。

「こんな長い刃物で押しかけるなんて、最近の強盗は本当に油断できないわ!」

「わ、私も剣は持っているぞ」

 そう言う意味じゃないと言いながら、師匠は常人には触れられないはずの聖剣を、勇者の手から蹴り飛ばした。

「とりあえず縛ろう」

「しっ縛るのか?」

「だって警察に引き渡さないと」

「警察はまずい! この人は犯罪者ではなく正義の味方なのだ!」

 それどころか勇者だと言えば、師匠の表情が僅かに変わる。

「バカ言わないでよ、どう見ても強盗じゃない」

 だが納得したとは言い難いようだ。

「見えなくても勇者なんだ」

「よく見えても浮浪者でしょ」

「それでも勇者なんだ」

「それにこの人何か臭いし」

「伝説の鎧というのは、一度着たら脱いではいけない決まりがあるらしい」

 そう告げれば、師匠は今更のように彼の纏う伝説の鎧に気付いて驚いた。

「……縄で縛るのあんたの仕事だから」

 だがそれでもなお、師匠の決意は揺るがないようだった。

「やはり縛るのか? 何度も言うようだが、正義の味方なのだぞ」

「お風呂に入らない奴に正義を語る資格はない」

 言い切る師匠の顔があまりに怖かったので、私は慌てて縄を探しに行った。

 あと、これからは毎日ちゃんとお風呂に入ろうと思った。

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