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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王とサンタの章
52/102

Episode47 気合い

 今夜だけは、何としてでも起きていようと気合いを入れて、私はもう3時間ほど暖炉の前に座っていた。

 ちなみに現在の時刻は、夜中の2時である。

「ねえ魔王、もしかしてあんた、アレ待ってるわけ?」

「うむ、待っている」

「別に待って無くても来るわよ」

「だが、プレゼントを貰ったらお礼を言うのが礼儀であろう」

「そう言う事気にする人じゃないって」

「でも本当は謝礼がないことに傷ついているかも知れない」

「そんなナイーブでもないわよあのじいさんは」

「だが世界中の人にプレゼントを配っている心優しき老人を置いて、一人休むのは心苦しい」

 そう言って膝を抱えれば、師匠が酷く困った顔で私を見下ろした。

「私のことは気にしないでくれ。それより師匠こそ休んだ方が良い」

「…いや、うん、私も正直さっさと休みたいんだけど」

「ならば休むと良い、私に遠慮はいらないぞ」

 そう言って微笑めば、師匠は何故か照れたように「しかたない」とつぶやくと、突然私のパジャマの裾を引いた。

「だからここは私ひとりで……」

「今日、あんたと一緒に寝たいって言ったらどうする?」

 その言葉を理解するより前に、何故だか体がかっと熱くなった。

「どっどうしたのだ師匠! いつもは一緒に寝ようと言っても嫌がるのに!」

「クリスマスだからっていうか、何て言うか……」

「しっしかし私はここで彼を待たねばならないし、それに今日は少し熱っぽくて……」

「あんた、サンタと私どっちが大事なのよ」

「勿論師匠ではあるが」

「寝てくれなきゃ、もう魔王にハンバーガー作んない」

「寝ます」

 頷いたのに、何故だか殴られた。

「私の誘いよりハンバーガーか貴様……」

 何故怒るのかと尋ねたが無視され、その上もう一度殴られた。

「ともかく寝るよ、さあ上に行って!」

 と追い立てられれば従う他はない。

 だが不思議なことに、追い立てる方の師匠は、踊り場から上になかなか上がってこない。

「師匠も一緒じゃないのか?」

「お、女には色々準備があるのよ…」

 何故だかそれ以上は聞いてはいけない気がしたので、私は師匠の寝室に入った。

 そして師匠も、それからすぐにやってくる。

「準備は終わったのか?」

「うんまあ、ばっちり」

「じゃあ寝るか」

 そう言って二人で布団に入った直後、またもや体が熱を持ち始める。

「師匠…」

「言っておくけど、明日の朝までこの部屋出ちゃダメだからね」

「なら空調を下げても良いか、酷く体が熱いのだ」

「むしろ寒くない?」

「そうか、師匠は寒いのか」

 なら我慢すると言えば、師匠が私の額に手を当てた。

 するとまた体が熱くなり、同時に胸も苦しくなる。

「確かにちょっと熱いわね」

「そして息も苦しい」

「もしかしてまた知恵熱? どんだけプレゼント楽しみにしてんのよあんた」

 師匠は呆れながらも、私のためにアイスバッグを持って来てくれた。

「寒いのにすまない」

「いいわよ別に」

「代わりに私の体で暖を取ると良い」

「それ、本末転倒じゃない」

「でも熱を有効活用できるなら良いだろう」

 そう言って師匠の体を抱き寄せた直後、体が更に熱くなり、そしてなぜか意識が飛んだ。



 次に目を開けると、カーテン越しに朝の光が差し込んでいた。

「すごい、家が違うのにプレゼントきた!」

 そして響いたアルファの声にハッとして、私は慌てて階段を駆け下りる。

「昨日は爆睡だったわねあんた」

 そう言ったのは台所で朝食の準備をしていた師匠だ。

「うむ、気がついたら息が止まっていて、そのまま死んだように眠ってしまったらしい」

 物凄く不安そうな顔で師匠に見つめられたが、今はそれよりプレゼントである。

 ボードゲームを前にはしゃぐアルファの横で、私は靴下に手を入れた。

「入っている!」

 興奮して腕を引き抜けば、手の中には小さな紙が一枚入っていた。

 それを手に、私が駆け寄ったのは台所に立つ師匠の所だ。

「師匠、プレゼントが来た」

「聞こえてるわよ」

「これで、師匠は幸せになれるぞ」

 私が頼んだプレゼントを差し出せば、彼女は嬉しいような困ったような顔で笑う。

「サンタさんには、師匠が幸せになれるチケットを頼んだんだ。これがあれば、もう悲しいことはきっと無くなる」

 そう言って差し出したのに、何故だか師匠は泣いていた。

「すっすまない師匠! サンタさんがチケットを間違えてしまったようだ」

「間違えてない」

「本当か?」

 うれし涙だと師匠は言うので、ひとまず安心する。

「でも本当に良いの? こういうのは、自分が欲しい物を頼む物なのよ」

「良いんだ。だってこれは、私が心から欲しかった物だ」

 なによりも一番に。

 そう告げると、師匠の目から新しい涙が溢れた。

「本当にうれし涙か? それにしては酷い顔だぞ?」

 言うと同時に殴られたが、その威力はいつもより弱い。

 その上涙を拭った師匠は、私が渡したチケットに似た紙をポケットからとりだした。

「嬉しかったのは本当。だからお礼に、これあげる」

 あんたへのクリスマスプレゼント。

 そう言って手渡された物はサンタから貰ったチケットによく似ていた。

「すごい、何でもひとつ願いが叶うと書いてある!」

「ただし願いを叶えるのは私だから、常識の範囲内にしてよ」

「師匠とずっと一緒にいたいというのは、常識の範囲内か?」

 尋ねた途端、師匠が惚けた顔で私を見上げた。

「だめか?」

「いや、その、あんたのことだからハンバーガーを死ぬほど食べたいとかそう言うことかと」

「ハンバーガーより、師匠といられる方がいい」

 惚けた顔から慌てた顔になり、師匠の目が再び潤んだ。

「やっやはりだめか? ずっとは嫌か?」

「嫌じゃないけど…」

 良かったと胸をなで下ろして、それから私はハッとする。

「そうだ、私からも師匠にプレゼントがあるんだ!」

 クリスマスツリーの下に置いてあると告げると、師匠は怪訝な顔をする。

「このチケットじゃないの?」

「もっと、もっともっと良い物だ」

 何故だか師匠がとてつもなく不安そうな顔をした。

 それに異を唱えようとした直後、リビングでアルファが物凄い悲鳴を上げる。

 何事かと思い、私はリビングに戻ろうとした。

 だがそれを、師匠が物凄い力で引き留める。

「あんたのプレゼントって何!」

「それは開けてからのお楽しみなんだが」

「良いから白状しなさい」

 そう言う師匠の顔が物凄く怖かったので、私は渋々白状する。

「わっ私の心臓だ。前は拒絶されたが、やはり師匠には長生きして欲しいと思って」

「今すぐ体に戻せ!」

 その声と顔のあまりの恐ろしさに、私は急いでリビングに戻った。

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