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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王とサンタの章
49/102

Episode44 変わらない

 何故だかここ最近、師匠がサラダばかり食べている。

 いつぞやのようにレタスを発注しすぎたのかと思ったがその気配はない。

 理由を聞いても「別に…」しか言ってくれない。

 しかし甘い物が大好きな師匠がサラダしか食べないなんて異常だ。

 私の作ったシェイクを毎日3杯のみ、その上隣の家のケリーが焼いたクッキーを日に10枚は食べていた師匠が3食サラダ漬け。

 これは魔王であるこの私がレベル1の勇者に負けるのと同じくらい、あり得ない事態である。

 おかしい、絶対におかしい。

 そう思って今朝もじっと師匠を見つめているのだが、彼女はただ黙々とサラダを口に運んでいる。

「…師匠、そろそろ別のものを食べた方が良いのではないか?」

「いいのよ。これ好きなの」

「でも師匠は野菜嫌いではないか」

「好きになったのよ」

「でも顔色も悪いし、ひどい汗をかいてるぞ」

「あんまり見ないで」

 そう言ってサラダを口に運ぶ師匠の手は若干震えている。

 これはまずい。絶対にまずい。

「師匠、やっぱり今日はサラダはやめよう」

「でもここで負けたら今までの努力が…」

「何かと争っているなら私が代わる! 戦いなら得意だ!」

 師匠の腕を掴み、私はサラダを遠ざけた。

「誰に勝てばいいのか言ってくれ。師匠のためなら、我が魔力で敵を粉砕してみせる!」

「そういう事じゃなくて」

「遠慮しなくて言い。さあ、私は何を倒せばいい!」

 そう言って詰め寄れば、師匠は顔を赤らめながらうつむいた。

「…こればっかりは、あんたにも倒せないと思う」

「私は全てを破壊するために生み出された存在だ、レベル100の勇者ならともかく、どんな敵でもまけはしない」

「……だって、しぼうだし」

「死亡? それはつまり、亡者か何かか?」

 じゃなくて、と師匠は自分の腹部を腕でギュッと押さえる。

「…最近その、腹回りの脂肪がね」

「ああ、贅肉のことか!」

 そこで師匠に殴られた。理由はわからなかったが一応謝っておいた。

「しかしなぜそんな物と戦っているのだ?」

「…私最近太ったでしょ? だからダイエットしようと思ったの」

「あまり変わったようには見えないが」

「変わったわよ! ズボンもきつくなったし、顔もふっくらしてきたし」

「でも別に良いと思うぞ。師匠は少し痩せすぎていたからな」

 会ったときの師匠は腕も足も棒のように細く、ちゃんと食事を取っているのか心配だったほどだ。

 実際食事を抜くことは良くあったようで、3食ちゃんと食べるようになったのは私と生活を始めてからだという。

「でも冬ってただでさえ太りやすいし、あんたスタイル良いから隣に立つと嫌でも目立つし」

「なら私が太ろうか?」

「やめなさい」

 勿体ないと惜しがる理由はわからなかったが、とにかくダメだというので巨漢に変身するのはやめておいた。

「ともかくあと2キロは落とさないと」

「でもサラダだけはダメだ。嫌いなものばかり食べていたら心まで痩せてしまう」

「だけど嫌なんだもん。クリスマスにはパーティーもあるし、ドレス入らなかったらまずいし」

「ならドレスを魔法で大きくする」

「でもあんただって、デブの女より痩せた女の方が良いでしょ?」

「私の好みは関係ないだろう。それに、私は健康的な師匠が一番好きだ!」

 だからもう辞めようと肩を掴めば、師匠が真っ赤になって下を向いてしまった。

「聞いているのか? 私はいつもの師匠が良いと言ってるんだぞ?」

「聞いてるから、何度も言わないでそれ」

「理解していないなら何度でも言う。私は楽しそうに食事をする師匠が好きだ、甘い物を食べて幸せそうにしている師匠が好きだ、太っていても痩せていてもこの想いは変わらな――」

「もう良いってば!」

 言葉を切られた上に、拳で殴られた。

「…ダイエットは辞めるから、もうそれ以上言わないで」

「本当か?」

 再度訪ねると、師匠は小さく頷いた。

「ならさっそく何か作ろう。何が良い?」

「……あんたが作る、ハンバーガー食べたい」

「すぐに作る」

「あと、その、パンケーキも……」

「沢山食べると良い!」

「…本当の敵は脂肪じゃなくてあんたね」

 笑顔でキッチンに向かうと、師匠が恨めしそうな顔で何かを呟いた。

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