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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王とサンタの章
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Episode43 ハスキーボイス

『私、おじさんと結婚するの』

 テレビの中でそう言って笑う少女は、幼い頃の師匠だった。

「懐かしいなぁ」

 私達が見ているのは、大掃除の最中に見つけた『思い出ビデオ』だった。

 昔の師匠が見られるというので無理矢理流して貰ったのだが、期待したとおり、幼い師匠は実に可愛い。見ていると、なぜかこちらがドキドキするくらい可愛い。

『ぜったいぜったい、おじさんと結婚する』

 でもその笑顔は「おじさん」という男に向けられた物で、その事実は何故だか私を酷く動揺させた。

 そのおじさんとやらが師匠を撮っているので、残念ながら姿はよく見えない。

 ただ優しげなハスキーボイスは師匠が好きなカントリー歌手の声に似ていて、そう言うところも大好きだとテレビの中の師匠は微笑んでいた。

 それ見たとき、私は会ったこともないこの男に、なぜか敗北感を覚えた。

 そもそも何かを競っている訳ではない。

 けれど私は、テレビを見ながら「負けた」と強く感じたのだ。

「師匠はいつ、この人と結婚するんだ?」

 考えると同時に口から零れた言葉に、師匠が飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「何馬鹿な事言ってるのよ」

「だって結婚の約束をしたのだろう」

「何年前の話だと思ってんのよ!」

 あほらしいと言いながらコーヒーを拭く師匠。けれど真実の愛は永遠の物だと、前に見た映画で誰かが言っていた。

「でもこの人が約束を覚えていて、ある朝薔薇の花束を持って玄関に立っていたらどうする!」

「あんたのプロポーズのイメージって微妙すぎるわよ」

「とっ、とにかく本当に訪ねてきたら…」

「ないない」

 そう言いつつ、師匠の顔は少し寂しげだった。

 このおじさんが今どこにいるのかはわからないが、もしかしたら師匠は彼に会いたいのかも知れない。

 それきり師匠はおじさんについて何も言わなかったが、きっと我慢をしているだけなのだ。

 そしてそれに気付いた瞬間、私はたまらなく寂しさを感じてしまった。

 相変わらず理由はわからないが、寂しいと言うのは酷くつらい。

 そしてそのつらさを師匠が感じているかと思うと、私はいても立ってもいられなくなった。

 だから私は決意したのだ。師匠とおじさんを会わせてあげようと。

 しかし残念ながら、師匠はおじさんについては何も教えてくれなかった。

 仕方なく、深夜になってから師匠に隠れてビデオやアルバムなどを片っ端から覗いたが、残念ながら彼の消息はつかめない。

 なので私は、作戦を変えることにした。

 おじさんの容姿と声、そして仕草を研究し、彼に変身する事にしたのだ。本人ではないが、寂しさはきっと紛れるはずだと思ったのである。


 翌朝、薔薇を片手に師匠の家の玄関に立った私は、どこからどう見てもおじさんそのものだ。

「久しぶり」

 我ながら完璧な変身だ。これなら絶対師匠も気付くまい。

「……アホか」

 なのに私を認識した師匠は、酷く呆れた顔をしていた。

「久しぶりの再会なのにつれないな」

「その小芝居辞めなさいよ」

「小芝居ではない」

「なら今すぐ、自分の名前をフルネームで言ってみなさい」

 そこで私は、おじさんの名前を知らないことに気がついた。

「…カ、カイルだったかな」

 確か名前はそうだったと思い出した直後、師匠が大げさなため息をつく。

「なんでそんな格好してるわけ?」

「…ばれているのか?」

「ばれないと思ってるの?」

 思っていた。

「師匠が、おじさんに会いたそうな顔をしていたから」

「してない」

「でも寂しそうだった」

「懐かしんでただけよ」

 それから師匠はじっと、私の顔を見上げる。

「似ているだろう?」

「おじさんはそんな間抜けな顔してない」

 頑張ってきりっとした表情を作ってみたが、結局笑われただけだった。

「十分楽しんだから、いつものあんたに戻りなさい」

「でも師匠はこの人が好きだったのだろう? もし望むなら、師匠が好きなこの人の姿のままでいても私は構わない」

「それ本気で言ってる?」

 本気だけど、それを選んで欲しくないという気持ちもある。

「……師匠が望むなら」

 我ながら情けない声しか出なかった。

 それに師匠は呆れたような、けれど嬉しそうにも見える笑顔を浮かべる。

「おじさんは私の初恋なの。素敵な思い出なんだから汚さないでよ」

「汚すつもりは…」

「おじさんのイメージぶちこわしじゃない。おじさんはもっと格好良くて優しくて素敵だったわ」

 だから戻りなさいと怒られて、私は仕方なくいつもの姿にもどった。

「うん、その方が良い」

「…おじさんになれなくて申し訳ない」

「いいのよ。おじさんと同じくらい、あんたのことも好きだし」

「じゃあ結婚してくれるのか?」

「結婚の意味も知らない癖に」

 確かに映画やテレビではよく見るが、その詳細を把握してはいなかった。

「勉強しておく」

「あんたには、多分理解できないわよ」

 どうやら結婚というのはとても難しい物らしい。それを理解する自信がなかった私は、師匠と共に渋々家へと入った。

おじさんの名前に「あれ?」と思った方へ。

彼と同名のキャラが出てくる小説に設置されている拍手内に、この話の続き(&おじさんの正体)的な小話を隠してみました。

開くまで外伝というかお遊び的なネタですが、気になった方は探してみてください。


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