Episode42 フォロー
「俺は決めたんだ。恋が実らないなら、潔くあの子の恋を応援しようって」
先週まで死人のようだったチャーリーが、ある朝物凄く元気になっていた。
「それはとても良いと思うが、師匠は留守だぞ」
「いい、用があるのはお前だ」
そう言うと、チャーリーは勝手に家に上がり込む。
「俺気付いたんだ。原因はお前だって」
「何の原因だ?」
「お前さ、恋したいとか思わないだろ」
「そんなことはないぞ。素敵な物だと聞くし、願望はある」
「それがもうダメだ。恋をして、そのあとはどうする?」
「恋のあとに何かあるのか?」
そういうと、チャーリーは「やっぱりそうか」と呟きながら、持っていた鞄の中身をリビングテーブルの上にぶちまけた。
それは大量のDVD。映画か何かのようだが、表紙に写っているのは裸の女性ばかりだった。
「お前は男として大事な物が欠落している! 恋が出来ないのも、自覚が出来ないのもその所為だ」
「意味がわからない上に、そのDVDは物凄く目に悪いのだが」
「これを望んで直視できるようになれ!」
チャーリーが目の前に差し出したDVDには、雌豹を思わせるポーズを取る裸の女が写っていた。
「女性の裸を見るのは、失礼ではないか?」
「失礼じゃない。男はみんな、こういうDVDを持ってるもんだ」
「チャーリーもか?」
「これは全部俺のコレクションだ」
「沢山あるんだな」
「お前の趣味がわからなかったから、色々持ってきた」
「よくわからんが、手間をかけさせたようだな」
とりあえず礼を言うと、チャーリーはさっそくテレビを付ける。
「ちなみに、ホラー映画ではないだろうな?」
「そう言うのもあるが、普通のやつだ」
「怖くはないんだな」
「ムラムラするだけだ」
良いから画面を見ろと言われ、チャーリーと共にソファーに座ること5分。
唐突に、テレビの中で女性が服を脱ぎだした。
「あの、チャーリー?」
「なんだ?」
「これはどういうストーリーなのだ?」
「そこの女と、あっちの男がやるんだ」
「何を?」
「ホラー映画でもあるだろう。裸で重なるあれだよ」
「でもあのシーンだけで映画が成立するのか?」
「そう言う映画なんだよ、とりあえず見ろ!」
しかし正直何が面白いのかさっぱりわからなかった。
台詞もほとんど無いし、怖くもないのに女は悲鳴を上げるし、非常に退屈だ。
その所為か、どうやら私は寝てしまっていたらしい。
ふと気がつくと1時間もたっており、テレビは消えていた。
「おはよう」
顔を上げると、チャーリーの代わりに師匠が隣に座っていた。
「チャーリーがいなかったか? 一緒に映画を見ていたんだが」
「ゴミと一緒に家の外に放り出したわ」
ゴミとはDVDのことなのだろう。山積みにされていたそれはなくなり、代わりに師匠が好きな映画がそこにはおいてある。
「もう、あの男ホント最低……」
「チャーリーはいい人だぞ。あの映画も、師匠の恋を応援するために持ってきたらしい」
それがなぜ恋の応援に繋がるかはわからないが。
「そんなフォローが出る時点で、全く役に立ってないのは明白ね」
「確かに、見るどころか寝てしまった…。チャーリーに悪いことをしたな」
「気にしなくて良い。あと、ああ言う映画は絶対見ちゃダメだからね」
そう言う師匠の目は、酷く冷たかった。
理由はわからなかったが、とにかく怖かったので私は二度と見ないと約束をした。