Episode41 応援
「お前は俺の親友だよな」
「もちろんだ。そんなことよりほら、ポテトが冷めてしまうぞ」
「親友だったら、どんなことでも応援できるよな」
「むろんだ。そんなことよりポテトが…」
「だったら俺と彼女の恋を応援してくれ」
突き出されたポテトのさきにいたのは、カウンターの側で暇そうにしている師匠だった。
驚きのあまり、私は片づけようとしていたコップを取り落とす。
派手な音をたてたが、チャーリーを覗けば他に客はいなかったので、急いで魔法で治した。
「…あの、その、恋というのは、恋か?」
「そうだ、2週間後のクリスマスまでに、告白するつもりだ」
そう言うチャーリーの目は本気で、そして私は真剣な顔で尋ねる。
「師匠のことが好きなのか?」
「気付いて無かったのかよ!」
「だって、何も言わないし」
「それはまあ、俺の勇気がなかったんだけども」
そう言いつつ赤くなるチャーリーは、確かに恋をする男の顔だった。
「応援、してくれるよな」
もちろんだと言おうとした。チャーリーは親友だ。
親友の恋は応援する物だとギャング団の掟にも書いてある。
なのになぜか、師匠とチャーリーが、テレビドラマの中の若い恋人たちのように、四六時中キスをしたり、抱き合ったり、裸になったりするのを想像した途端、またしても悪い魔王が目を開けた。
けれどチャーリーは親友だ。殺す事なんて出来はしない。
「も、もんだいない…ぞ。応援、大丈夫…する…」
悪い魔王を押さえ込みながら、必死に言葉を重ねると、何故だか涙が止まらなくなった。まるでダムが決壊したように目から涙が溢れてくるのだ。
お陰で悪い魔王は影を潜めたが、何故だかチャーリーが酷く慌てている。
「すまん、お前が本気だったなんて思わなかったんだ! ホントごめん」
その上彼は、詫びる理由など無いのにごめんと繰り返す。
「応援、大丈夫…問題…ない」
「いやいい、もう忘れろ。お前の気持ちはお前以上にわかったから」
「いや、恋は…大事だって…師匠が…」
だから応援すると口にしようとした瞬間、突然目の前の世界が歪んだ。
そしてその次の瞬間、私は3日後の師匠の家にいた。
正確には3日間寝込んでいたのだという。高熱で。
「目がさめた?」
側にいたのは師匠で、彼女は私の手をギュッと握ってくれる。
「チャーリーは?」
「毎日お見舞いに来てたわよ。あと、応援はもういらないって」
「どうして?」
「失恋したから」
私は驚いて師匠を見る。
「おかしかったのよ。あいつ倒れたあんたを抱きながら、『俺を振ってくれー!』って大絶叫したんだから」
「でも、告白はまだだと…」
「うん。告白されてないけどって驚いたら、好きだっていまさら言うのよ」
まあ知ってたけどと師匠は言った。どうやら何も知らないのは私だけのようだった。
「知っていたのに、振ってしまったのか?」
「嬉しかったけど、彼の事は友達にしか見えなくて」
だから言われたとおりにしたのだと、師匠は静かに言った。
「私が応援したら、結果は変わっていたか?」
「こういうのは当人同士の問題。応援は関係ない」
むしろ大切なのはこれからだと、師匠が微笑む。
「成功したら一緒に喜ぶ。失敗したらなぐさめる。それが一番大事」
「なぐさめられるだろうか」
「大丈夫よ、あんた人の心を暖かくする天才だから」
師匠に言われると、なんだか頑張れる気がしてきた。
「今すぐにでも、チャーリーの所に行きたい」
「熱が下がったらね。それに、私も心配したんだから」
だからもう少し私と一緒にいてと師匠が言うので、私は彼女の手を握った。
「それにしても、どうして急に熱なんて出たんだろう」
「知恵熱じゃないの?」
それはどんな物かと尋ねると、馬鹿が引く風邪のような物だと言われた。
私の頭がもう少し良かったら、チャーリーを応援出来たのだろうか。
そんなことを思っていると、また熱が上がってきてしまった。
考えると熱が出るのに、どうやって頭を良くすればいいのだろう。
でも次こそは、ちゃんと彼の恋を応援したい。
そしてそのために、とりあえず解熱剤は持ち歩くことにしようと思った。




