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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
良い魔王と悪い魔王の章
45/102

AnotherEpisode4  「えー、この人と一緒にされると迷惑なんですけど」

Episode40.5 師匠視点

「あんた、ついにあの子とできたのかい?」

 学校から帰った私に、そう声をかけたのは隣のケリーお婆ちゃんだ。

「あの子って?」

「お前の所の、あの若い男だよ」

「無いわよ。あいつ、そう言う感情欠落してるし」

「でもキスしてるんだろう」

 そう言うことを表で言うなと、きつく叱らねばと心に決めた。魔王は人の誤解を生むのが上手すぎる。

「恋人は無いわ。キスも、親子でするような物ばかりだし」

「でもそれが残念なんだろう」

 聡いケリーに、私は唸るほかない。

 近所の大人達は、彼女を痴呆の始まった老人だと馬鹿にしているが、それは大きな間違いだ。

 なにせこちらの秘めたる想いを的確に言い当てる、勘の鋭さは未だ健在。

 ことあるごとに魔王とのことを尋ねてくる彼女は、高校の同級生よりその手の話題に敏感だ。

「ま、否定はしないわ」

「大人な反応が出来るようになったじゃないか。昔は違うと喚くだけだったのに」

「大人にもなるわよ。あんな大きな子どもが出来れば」

 そう呆れた直後、ケリーの家から派手な倒壊音がした。

「もしかして、魔王がいる?」

「さすが」

 さすがもなにも、この手の派手な音を立てるのは魔王の十八番である。

「迷惑かけてる?」

「…家の掃除をしたいときかなくてね。仕方がないから好きにさせてる」

「手伝うわよ。今日はお店お休みなの」

「こんな汚い家、私だったら死んでも入りたくないよ」

 自分のことを棚に上げて笑うケリーお婆ちゃんは、どこか自嘲的だった。

「昔はよく遊びに来たじゃない。お爺ちゃんの作ったクッキーも、良くごちそうになったし」

 でもそのお爺ちゃんが死んで、ケリーお婆ちゃんは変わってしまった。

 同じ頃に私も父を亡くし、私達はそれぞれ、悲しみを言い訳に家からでなくなった。

 そして、気がついたときにはケリーの家は荒れ果て、私は彼女との付き合い方がわからなくなってしまったのだ。

「もうあの人はいないよ」

「私は好きよ、ケリーが焼くクッキーも」

 でも本当は、付き合い方なんてわからなくてもいいのだ。

 だってケリーとは赤の他人だった魔王が、こうして家で好きかってやっているのだ。彼が家に入れているのに、私が入れないわけがない。

「だからまず、キッチンから綺麗にしましょう」

 鞄をデッキにおき、私はケリーの家の扉を開ける。

 数年ぶりに足を踏み入れたその家は、何もかもが変わってしまっている。

 けれど立ちすくんだ私の背中を、派手な倒壊音と情けない悲鳴が押してくれる。

「あんた達、本当におかしなカップルだ」

「えー、この人と一緒にされると迷惑なんですけど」

 いつだったか、ケリーに可愛いと褒められたおどけた笑顔を浮かべれば、彼女は呆れたように笑う。

「綺麗になると思うかい?」

「あいつ掃除のプロだもん」

「破壊の間違いだろう?」

「それに私もいるし」

 そう言って微笑めば、ケリーがようやく私の隣に並んでくれた。

「じゃあ家が綺麗になったら、久しぶりにクッキーを焼こうかね」

 その言葉と、そして久しぶりに見た笑顔が嬉しくて、私は彼女の肩を軽く抱きしめる。

「ねえ、良かったらうちの店にクッキー置かない? 私甘い物作るのどうも苦手で」

「考えておくよ。…ただし、売上げの9割は貰うから」

「その代わり、売れ残ったクッキー食べて良い?」

「私のクッキーが売れ残るわけがないだろう」

 そう言うケリーは昔より偏屈になったが、それもまた可愛らしくて素敵だと思った。

 出来ることならこういうお婆ちゃんになりたい。

 そう思い、そしてそれを言葉にすれば、ケリーはにやりと微笑んだ。

「私みたいになりたけりゃ、まずは素敵な男を捕まえな」

「そんなのこの街にいる?」

「意外と近くに転がってるもんさ」

 ゴミの中とかに。

 そうつげて、ケリーおばちゃんは更に意地悪く笑った。

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