Episode38 大切に
「師匠、今日は私に付き合って欲しい」
私がそう言って頭を下げると、師匠は何故だか挙動不審になり、持っていたコーヒーを派手にブチまけた。
「つ、付き合うって…」
「うちのガレージでギャング団の集会があるから、一緒に出て欲しいのだ」
「……遊びか」
師匠はなにやらがっかりした顔でコーヒーを拭いている。
てっきり用事があるのかと私までがっかりすると、師匠が慌てて行くと言ってくれた。丁度今日は午後から休校らしい。
「それで、今日はどんなイタズラの会なの?」
「今日はイタズラではなく、宝物を見せ合う会なのだ」
「宝物?」
「一番の宝物を持ち寄って、それがいかに凄くて素敵かを自慢しあうのだ」
「え、あの、それ…」
「私は高価な物は持っていないし、それに宝と言ったら師匠しかないから」
だから来てくれないかとお願いすると、師匠はなぜだか戸惑っていた。
「…けっけど、プラモデルとかハンバーガーとかもあるじゃない」
「でも宝物とは一番大切にしている物だろう?」
ハンバーガーは好きだけど食べてしまうし、プラモデルは遊ぶときに振りまわして傷つけてしまう。
だから傷も付けたくないほど大切で、ずっと側にありたいと思う物は師匠しかないのだ。
「……だから、私と一緒に来て欲しい」
大事なお願いをするときは、紳士的な態度でお願いをする物だとテレビで言っていたので、私は師匠の前に片膝を突き、その手を取った。
途端に師匠は真っ赤になって私の腕をふりほどく。
「やはり駄目か…」
「そうじゃない、そうじゃないけど!」
「ならいいのか?」
「……あんまりドキドキさせないで、お願いだから」
「別に怖いことは言っていない」
「うん、わかんないならいいや。っていうかそうよね、無意識よねどうせ」
何故だか師匠はちょっと残念そうだったが、集会にはちゃんと来てくれた。
そう言う優しいところがやっぱり凄く好きで、それをふまえて師匠がいかに素晴らしい宝物かを熱弁したところ、本日の一等賞を貰うことが出来た。
やはり師匠は最高の宝物である。