Episode37 マッサージ
朝目を覚ますと、なんと師匠が花を飾っていた。
「似合わないのはわかるけど、その顔失礼すぎるわよ」
「いや、その、花は似合うのだが、自ら買ってくるのは初めてだったから」
「これはもらい物よ。ファンだって言う人から」
宅配でと言いながら師匠が差し出した紙には、見てるこちらが恥ずかしくなるような、恋の台詞が並んでいた。
どことなくチャーリーの字に似ているような気がしたが、差出人の名前は無い。
「まあ柄じゃないけど、こういうの貰えるとやっぱり嬉しい」
そう言って花の香りを嗅ぐ師匠は、いつもより何倍も綺麗にみえて、何故だか私は焦ってしまった。
焦った上にとても不安で、それは師匠が学校に出かけたあとも消えてくれない。
その所為でことあるごとにガラスを割ったり、物を壊していたら、向かいの家からギャング団の頼れるリーダー、アルファがやってきた。
「遊ぶ約束を、していただろうか?」
「心配できたんだよ。魔王の挙動不審な動き、俺の家からバッチリ見えるんだよね」
何があったのかと尋ねられ、事の次第を話す。
するとアルファは、私の焦りと不安を取る素晴らしい解決法をみつけてくれた。
「花何かより、もっと凄いプレゼントをあげればいいんだよ」
「…でも私は何も持っていないし」
「じゃあチケットにしなよ。お金もいらないプレゼントだけど、うちのママは凄い喜んでくれる」
掃除を変わりにやるチケット、庭の草むしりをするチケットなど、仕事を肩代わりするチケットを渡すと、彼のママはとても喜んでくれるらしい。
「しかし、掃除も洗濯も草むしりも私の仕事だ」
「じゃあマッサージは? 年頃の女は、エステとかマッサージのチケットが好きらしいよ」
「なるほど、じゃあ早速作ってみる!」
「1枚とかケチなコトしちゃだめだ。10枚綴りにして大人の魅力をアピールするんだ」
アルファの助言通りに早速チケットを作り、私はそれをこっそりとポストに入れた。
しかしその夜、私がチケットを見つけたのはゴミ箱の中だった。
ショックのあまり、仕事から帰った服のままゴミ箱の側で1時間ほど佇んでいると、師匠がばつの悪そう顔で私の横に立つ。
「もしかしてそれ、あんたがポストに入れた?」
「……」
「か、書いてある文字が読めなかったから、だからてっきり子どものイタズラかと思って…」
「……」
「そんな悲しそうな顔しないでよ! ちょっと生ゴミ臭いし、正直なんだかよくわからないけど、あんたから貰った物は大事にするから!」
師匠はそう言ってチケットを取り上げたが、私はそれを奪うとゴミ箱に戻した。
「もういいんだ。忘れてくれ」
「……ごめんね」
「……」
「本当にごめん」
「……」
「……お詫びに、ハンバーガーにパテ3枚挟んであげる」
「……」
「チーズも2枚」
「……」
「じゃあ3枚」
「…マッサージの券だったんだ」
ゴミ箱を覗きながら言えば、師匠が謝罪の言葉を口にしながら私の手を握った。
「花何かより、ずっと嬉しい」
「本当か?」
「最近肩こり酷いし、マッサージされたいなぁっておもってたの」
師匠の言葉と笑顔に、ようやく沈んでいた気持ちが浮上した。
「今からでも使うか? 10枚もついてるんだ」
「じゃあ食後にお願い」
そう言って師匠は笑ってくれた。
ずっと不安だったのは、この笑顔が花を贈った誰かに向いていたからかも知れない。
花を愛でている時よりも美しいその笑顔に、ようやく私はホッとして、それから師匠の手を握りかえした。
「師匠のためなら私は何でもする。マッサージも掃除もするし、花だって摘んでくる」
「どうしたのよ突然」
「ただ師匠が望む物を贈りたいと、そう思っただけだ」
「…そういう台詞は、恥ずかしいからやめて」
どうして恥ずかしがるのかと尋ねたが、師匠はこたえてくれなかった。
それどころか、もう一度言ったらチーズを2枚に減らすと脅されたので、私は仕方なく黙った。