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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
良い魔王と悪い魔王の章
40/102

Episode36 とぼける

 割れた。

 割れてしまった。

 よりにもよって、師匠が大切にしているコーヒーカップを粉々にしてしまった。

 師匠がいないときで良かったと思いながら破片を集めて、私はすぐさま魔法で元に戻そうと試みる。

 だが元に戻り欠けたコップが、突然破裂した。

 破片が突き刺さった痛みで私はようやく思い出す。

 このカップを割ったのが、もう100回目であることを。

 最近あまり使っていないので忘れていたが、私の魔法には回数制限がある。

 同じモノを直せるのは99回まで。それ以上は何をどう頑張っても復元は不可能なのだ。

 よりにもよって、なぜかこのカップばかりとうなだれていると、私の特異な聴覚が師匠の足音を聞き取った。

 友達の家で勉強をすると言っていたのにいつもより帰りが早い。

 自分の間の悪さを悔やみながら、私は急いで割れた破片を植木鉢の中に隠した。

 師匠が帰ってきたのは、植木鉢から飛び退いたのとほぼ同時だった。

「今日は寒いね、すっかり冷えちゃった」

 帰ってきた師匠は機嫌が良さそうだ。

 だからこそ怒らせたくないと思い、私は喉まででかかった謝罪の言葉を飲み込む。

 もう少し時間をおいて、完璧な嘘を考えよう。

 完全なアリバイをつくり、絶対ばれない計画を考えるのだ。

 いくら馬鹿だアホだと周りから言われているとは言え、私は魔王だ。犯罪ならお手の物である。

「そうだ魔王」

「どうした師匠」

「寒いからコーヒー入れて」

 早速計画が破綻した。

 師匠はコーヒーを飲むときあのカップを必ず使う。

 違うカップを出せば確実に怪しまれる、というかばれる。

「忙しいなら自分で入れるけど…」

「問題ない!」

 キッチンへの進路を塞ぎ、私は慌てて食器棚の前に立つ。

 ダメだ。妙案が全く思いつかない。

 使える魔法があるとしたら、師匠に幻覚を見せるとかくらいのものだ。

 しかし師匠にだけは魔法をかけないと私は決めている。これだけはやりたくない。

「…魔王、どうしたの?」

 唐突にすぐ後ろで声がした。パニックで師匠の気配を読み間違えていたのだ。

「も、問題…ない」

「ってあんた、手の平血だらけじゃない!」

 しまった。破片を片づけるのに必死で、全く気付かなかった。

「手当てしなきゃ」

「だ、大丈夫だ」

「でも滝のように血が出てるわよ」

「これくらいで死ぬような魔王ではない」

「でも痛いでしょう?」

 痛いのは、割れてしまったコップの方だろう。

「…とりあえず治療を」

「そのまえに、あの、謝りたいのだが」

「別に良いわよ、気付いてるから」

「え?」

「とぼけたって無駄よ。割ったんでしょう、私のコップ」

 ばれていた。

「言っておくけど、あんた全部顔に出るから」

「か、隠していてすまない」

「それにいつか絶対割ると思ってたし」

「師匠は未来が見えるのか?」

 師匠は私の血を拭いながら、何故か吹き出した。

「だってあんた、私のコップだけやたら慎重に扱うじゃない。割らないように気を遣いすぎて、いっつも手が震えてるんだもの」

「大切な物だと聞いていたから…」

「だからってそんな腫れ物触るようにしなくても良いのよ。割れたらまた買えばいい」

「でも同じモノは売ってないのだろう」

「同じのはないけど、前よりもっと可愛い奴をかうからいいの」

「次も割ってしまったらどうしよう」

「そしたらまた、もっと可愛い奴を買うわ」

 でも、出来る限り割らないでよと苦笑され、私はごめんなさいと頭を下げた。

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