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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
良い魔王と悪い魔王の章
39/102

Episode35 いたずらっ子

 11月に入ってから、師匠が店にやってくるのが少しだけ遅くなるようになった。

 仕込みや準備は私の担当だし、ハンバーガーも一人前のお墨付きを貰ったので問題はないのだが、一人でダイナーに立つのは本当は少し寂しい。

「あれ、今日は一人か?」

 ホールにぽつんと立っている私に、そう声をかけたのは久方ぶりに店に来たスティーブだ。

 相も変わらず薄汚くて幸が薄そうなトラック運転手は、無精髭をなぞりながら、おきまりのカウンター席に腰を下ろす。

「ようやく店に来れたのに、歌姫ちゃんがいないなんてついてねぇな」

「もうすぐ来ると思うぞ」

「あれか? まさか彼氏が出来たとか?」

 そんなわけはないと言おうとしたが、何故だか持っていた皿を取り落としてしまった。

「まあ最近目に見えて綺麗になったあらなぁ。小さい頃は、どっちかって言うと男の子みたいだったのに」

「今もお淑やかではないぞ」

「アレでもある方なんだよ! 昔はイタズラばっかりして、オヤジさんにぶん殴られてた」

 たしかにいたずらっ子の元締めアルファが尊敬するくらいだから、彼の言葉に偽りはないのだろう。

 けれど今の彼女は、どちらかと言えば子どもを殴って叱る方である。

「あれだな、ガキが出来てしっかりする母親みたいなもんだな」

 ガキと言いつつ指をさされ、私は少しだけ落ち込んだ。

「師匠は私の母親なのか」

「恋人になるかと思ったが、他にいるみたいだしな」

 家族になれるのは嬉しいが、母親と子どもという関係は何故だかあまり嬉しくなかった。

「恋人が出来たら、子どもはどうすればいいのだろうか」

「まあ難しいよなぁ。俺も母親が再婚してからは、実家に顔出さなくなったしなぁ」

「側にいては、いけないのだろうか」

「それぞれだろう。まああの子は、お前を放り出したりゃしねぇよ」

 でも邪魔になったら出て行くと、私は師匠と約束した。

「スティーブ、もし師匠が結婚したら君の家に泊めて貰うことは可能だろうか」

「この年で野郎と同居とかしたくねぇよ」

「男であることが問題なら、魔法で容姿を女に変えるぞ」

「…胸が大きいなら考えても言い」

「希望のサイズを言いたまえ」

「っていうか、こういう女になれるか?」

 そう言ってスティーブは、いかがわしい格好の女性が写っている雑誌をつきだしてきた。

「こういう女性が好みなのか?」

「おう、一度で良いからこういう女に膝枕して貰いたい」

「良いだろう、このくびれはなかなか難しそうだが魔王の魔力にかかればこれくらい…」

 早速変身しようと力んだ直後、馴染みの衝撃が頭部を駆け抜ける。

 気がつくと、師匠がお盆を片手に私の背後に立っていた。

「さっきから聞いてりゃ、あんた達本当に馬鹿なんだから」

「デートはいいのかい?」

 スティーブが尋ねると、私に喰らわせたのと同じお盆チョップを師匠は繰り出す。

 もはや客と従業員のやり取りではないが、スティ-ブが嬉しそうなので良いのだろう。

「彼氏なんていないし、もうすぐテストだから勉強してただけよ」

「じゃあ師匠は結婚しないのか?」

 思わず縋り付けば、また馬鹿なことをと師匠が呆れた。

「私は結婚しません。ずーっと一人でこの店をやってくって決めてるんだから」

「一人……」

「あ、あんたはいても良いけど」

 その一言に、私は思わず師匠をギュッと抱き寄せた。お陰でお盆チョップを3回も喰らったが、それでも放せぬほど嬉しかった。

「なんだよ、上手くいってるんじゃないか」

 俺の巨乳がと残念がるスティーブ。

「巨乳が見たいなら、変身しても良いぞ。私は今最高に機嫌が良い」

「やったら追い出すわよ」

 師匠はそう言って、スティーブの雑誌をゴミ箱に捨てた。

 久しぶりに変身魔法を使う気でいた私は、少しだけ残念だった。

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