Episode33 センス
私はよく、師匠に服装が酷いと怒られる。
と言っても元々は全て、師匠の亡き父親の服なのだが。
「あんたって本当に服のセンス最悪よね。何でよりにもよってそれを選ぶわけ?」
そう言って、太陽とヤシの木とイルカが笑っているTシャツを師匠はなじる。
割と気に入っていたのだが、それを言うと更に怒りそうなので、ビリビリにされる前に私はそれを脱いだ。
「今度の週末、お金上げるからチャーリーと買い物でも行ってきたら? あいつ、服のセンスだけは良いから」
師匠に迫られ、私は早速チャーリーに電話をした。
「師匠に、服のセンスだけは良いチャーリーと買い物に行けと言われたのだが、週末はあいているだろうか」
長く拘束するのは悪いと思ったので要点だけを伝えた所、電話は一方的にきられた。
返事がなかったのが不安だったので、次の日曜日、私はチャーリーを家まで迎えに行くことにした。
待ち合わせの時間を決めていなかったので、仕方なく玄関前で3時間ほど待っていると、物凄く不機嫌な顔のチャーリーが家から出てくる。
「お前はストーカーか!」
「違う、チャーリーが出てくるのを待っていただけだ」
「……約束はしてない」
「でも電話をした」
「アレが人に者を頼む態度か!」
「駄目なのか?」
それは大変だと思い、私の至らぬ点を聞こうとしたが、チャーリーの眉間の皺が更に深くなっただけだった。
「服のセンスだけじゃなく、言葉選びのセンスもどうにかしろ」
「やはり、私は言葉選びのセンスも悪いのか?」
「自覚のないところがまた腹立つ!」
といいつつも、やっぱりチャーリーは親友だ。
その日一日かけて買い物に付き合ってくれた上に、長いまま放置していた私の髪をカットまでしてくれたのだ。お陰で、師匠の反応は上々である、これで当分は叱られまい。
「やだ、凄く良いじゃない!」
そう言って私をなで回す師匠に、何故だかチャーリーが落ち込んだ。
「逆にダサダサにしてやれば良かった」
「ださださ?」
「見るにもたえない格好って事だよ」
「チャーリーはそっちの方が良いのか? それならば、角とか尻尾を出すが」
「せっかく買った服に穴が空くからやめろ」
そう言うとチャーリーがあまりに落ち込んでいたので、私は師匠に内緒で、彼にタダでシェイクを作った。
「チャーリーが好きな物だけで作ったんだ、飲んでくれ」
「把握してるのかよ」
「バナナとバニラアイスとハチミツとパイナップルだ。さすがにピザとドクターペッパーは入れられなかったが、どれも好物だろう?」
「…こう言うところに女は弱いのか」
口調はまだ落ち込んでいたが、上目遣いに美味しいと言ってくれチャーリーの顔は笑顔だった。
その笑顔があんまり爽やかだったので、私は思わず嬉しくなる
「やっぱり私は、笑っているチャーリーが好きだな」
そしてそのうれしさを言葉にした所、なぜかチャーリーはシェイクを吹き出した。
その上顔まで赤らめている。
「そう言うのは男に言うな!」
「どうしてだ? チャーリーのことが好きなのは事実なのに」
嘘をつくのはあまり好きではないので、私はそう主張した。
だがなぜか、今度は側に来ていた師匠が驚いていた。
そんな師匠を見て、チャーリーも驚いていた。
見つめ合う二人。重い沈黙。
その後、最初に泣き出したのは師匠だった。
「あんた達なんて大っきらい」
何故だか持っていたお盆で私の頭を殴り飛ばし、師匠は厨房へと駆け込んだ。
「きらいって言われた……きらいって…」
なにやらブツブツ呟くチャーリーの目は死者のようにうつろだった。
しかし魔王である私は復活の魔法を使えないので、その後しばらくチャーリーの目は死んだままだった。