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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
良い魔王と悪い魔王の章
35/102

Episode31 変身

朝目が覚めると、師匠が猫に変身していた。

「そんなに凝視されると、恥ずかしいんですけど」

 正確には変身しかけていた、と言うべきだろう。

 顔や体はいつもの師匠だが、ネコの耳と尻尾が生えていたのである。

「知らず知らずのうちに、獣化の魔法を使ってしまったのかと考えていたのだ」

「そんな便利な魔法があるなら言いなさいよ。わざわざ買わなくて良かったじゃない」

 そう言って師匠がネコの耳に手をかけると、それはいとも簡単に取れてしまう。

 唖然とする私の前で、師匠は楽しそうに笑っていた。

「これ、ハロウィン用の仮装衣装なの」

「はろうぃん?」

「一年に一度、死者が家を訪ねる日をそう呼ぶの。そして尋ねてくる死者から身を守るために、自分たちもお化けとか怪物とか、怖い仮装をするの」

「死者と言うことは、ジェイソンさんも来るのだろうか」

「そうね、今日は街にたくさんいるんじゃないかしら」

 意地悪く笑う師匠に、今日は一日家にいようと決意する。

 だがそんな私の決意は、師匠の一言の前に崩壊した。

「ちなみに、今夜は高校のパーティで歌うの。だから、家いるなら留守番ね、一人で」

「じぇ、ジェイソンさんが尋ねてきたら困る…」

 思わず縋り付いた私に、師匠は安心しなさいと笑った。

「由来は怖いけど、ハロウィンって楽しい物よ。みんなで仮装して騒いだり、子どもは菓子をもらいに家々を練り歩くの」

「お菓子が貰えるのか」

 あんたはそっちに反応するかと師匠に呆れられたが、何だかんだ言いながら、師匠はお菓子を貰うための呪文を教えてくれた。

「あんた顔が良いから、それ言えば絶対みんなくれるわよ」

「でも仮装していない」

「今からでも買いに行く?」

 せっかくだしと財布を持ち出した師匠に、私は妙案を思いつく。

「師匠にこれ以上の借りは作れない。それに、恐ろしい格好ならばあてがある」

 師匠の財布を棚に戻しながら、私は久しぶりに、封じていた魔力を解放する。

「本当はあまり見せたくなかったのだが、お菓子のためなら仕方がない」

 魔力を使い、私は人の姿を取り払う。

 赤き眼は血の如く、鋭い牙は獣の如く、長き尾は蛇の如く、黒き翼は竜の如く。

 吟遊詩人達がそう称した私のもう一つの姿、それを私はこの世界で始めて解放した。

 この姿を見た者は例外なく、恐怖におののき私を嫌悪した。

 だから師匠にも本当は見せたくなかったのだが、お菓子のためなので仕方がない。

「これで、いいだろうか」

 恐る恐る師匠を伺うと、彼女は言葉を失った顔で私を見上げ、そして…。

「…悪くないけど、洋服はどうにかしないと駄目ね」

 そう言って、私の着ていたパジャマを引っ張った。

「しまった…、翼と尻尾の所為で穴が空いてしまった」

「やっぱり貫通するんだ…。格好いいけど、不便ねコレ」

「かっこいい、か?」

「うん。パジャマじゃなきゃ」

「怖くはないのか?」

「パジャマだし」

「でも、パジャマを脱いだから怖いだろう」

「初登場でパジャマだから、脱いだどころで笑っちゃうと思うわ」

 その言葉に、私は安心した。

「でもそうね、これだけ派手だと普通の服じゃあわないわよね」

 そう言って、師匠は倉庫から亡き父上の仮装衣装を色々と引っ張り出してくれた。

「これだったら栄えるかも。角とか翼とかある意味宇宙人っぽいし」

 そう言って師匠が着せてくれたのは、先日見た宇宙活劇映画に出てきた騎士が纏う衣装である。

「ジェダイって言うより、シスっぽいけどまあいいか」

 翼用に穴を開けるときは渋っていたが、衣装を纏った私の格好に師匠はご満悦だった。

 その時点ですでに驚いたが、もっと驚いたのは街に出てからだ。

 師匠だけでなく、アルファやチャーリーなどの友人達。そして街を行く人々までもが、私の姿を恐れるどころか喜んでくれたのだ。

 写真をせがまれたり、お菓子の呪文を言っただけなのにキスまでされた。主に年配のご婦人達からだが。

 向けられた笑顔と腕いっぱいのお菓子は夢のようで、私は生まれて初めて、この姿を持つことに喜びを感じた。

 こんな素敵な気分になれるならハロウィンも悪くない。

「あ、魔王見て! ジェイソンに仮装した子どもが5人もいる!」

 前言撤回だ。やっぱりハロウィンは恐ろしい。

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