Episode27 ちびっ子ギャング
「師匠見てくれ!」
そう言って私が胸のバッジを誇らしげに指さしたというのに、師匠はちらりと目を向けただけだった。
「なんで瓶の蓋なんて胸につけてんの」
「違う、これはギャング団の証だ!」
私が言えば、師匠は虚空を見つめ、やる気のない声で「ああ」と答える。
「そう言えば近所の悪ガキ達が付けてるわね」
そう言って師匠がバッジを指で弾くと、バッジは小気味いい音を立てて床へと落ちる。
凄く格好いいのだが、蓋の裏にセロテープで安全ピンを貼り付けているため落ちやすいのが難点だ。
「ってかあんた、いつの間にガキンチョ達と仲良くなったの?」
「仲が良いとのとはちょっと違うな。私はリーダーのアルファに脅迫されているのだ」
「脅迫って、あの子10歳くらいでしょう」
「魔王であることが先日ばれてしまってな。それをアルファのママに黙っていて貰う変わりに、彼らの仕事に付き合っているのだ」
「情けない……ってか仕事って?」
「近所の犬の首輪を外したり、意地悪おじさんの家の玄関マットを隠したり、みんなでお菓子を食べたり、ゲームをしたりすることだ」
「それ、仕事じゃなくて遊びっていわない?」
「でもみんな真剣だぞ」
むろん私もだと告げると、師匠は床に落ちたバッジを拾い上げる。
「あんたは良いわね、楽しそうで」
「私も、脅迫される事がこんなに楽しいとは思わなかった」
私が笑顔を向けると、師匠は壊れたバッジからセロテープをはがし、粘着力の強いテープで貼り直してくれた。
あまりに手際が良いので驚いていると、師匠は私に苦笑をむけた。
「私も昔は、ギャング団の一員だったの」
その後師匠は、ガレージの奥から大量のバッジを持ってきてくれた。古いが格好いいデザインのバッジに私が感動していると、師匠はその中から私好みのバッジを取り上げ、胸に付けてくれた。
これを見せたら、人気者になれるわよ。
師匠に言われるがまま、翌日アルファにバッジを見せると彼は大層感動していた。
「これどうしたんだ!」
「うちの師匠に貰ったんだ」
「そうか、どこかで見覚えがあると思ったらあの姉ちゃん伝説のボスだ!」
「ぼす?」
「俺達がやってるイタズラの殆どは、ボスが考えた物なんだぜ」
前々から大物だとは思っていたが、やはり師匠はただ者ではないようだ。
「ボスの彼氏なら、これからは脅迫なんて出来ないな」
「彼氏ではないぞ」
「とか言っていつもくっついてるじゃん」
確かにホラー映画を見るときはくっついている。
あと見た後は一人では眠れないので師匠と一緒に寝ている。
「くっつくのが彼氏なら、確かに彼氏なのかも知れない」
「じゃあ今日からは対等の仲間だ」
差し出された手を握り、私は思わず笑みをこぼした。
脅迫されるのも悪くないが、対等になるのはもっと悪くないと思った。