Episode25 メンバー
いつかはこんな日が来る気がしていた。
「おい、お前! お前本当は人間じゃないだろう!」
私の正体が、ばれたのである。
それも私の正体を見破った相手は、正義の心を持つ勇者だった。
「白状しろ! さもないと、お前の正体をボクのママにバラししちゃうからな!」
ただ、勇者としては少し幼い。見たところ、10歳に届くか届かないかくらいの少年だ。
「何故私が人でないと気付いた」
「お前、変な剣にしゃべりかけてるだろう! あと手も使わずに掃除機とかモップを動かしているのを見た!」
たしかに、私には手をふれずに物を動かす力がある。
かつては、跳んできた矢や弾丸を止めるとか、無数の剣を操り勇者達を細切れにするために使用していた力だが、最近では広い家を効率的に掃除するために使用している。
ちなみに、手を使わないのは怠け心があるからではない。全ては、手を動かすよりも効率的で早いからである。大事なことだからもう一度繰り返すが、怠け心から力を乱用しているわけではない。
だがまさか、それを見られていたとは思わなかった。これからは、掃除の前にはカーテンを閉めねばなるまい。
「わかった認めよう。君のママとやらがどれほどの猛者かはわからないが、師匠に迷惑をかけるわけにはいかないからな」
「じゃあやっぱり人間じゃないのか」
「さよう、私は魔王だ」
別の世界から来たと告げると、小さな勇者は恐れるどころか感動の眼差しを私へと向ける。
「すげぇ、ゲームの登場人物みたいだ」
「げーむ?」
「魔王なのにゲームもしたことないのかよ」
ないとこたえると、小さな勇者は私の姿をまじまじと見る。
「今日は暇なんだ、何だったらお前俺の家に来るか?」
一瞬罠かとも思ったが、ゲームとやらには非常に心引かれる物がある。
それにもしかしたら、私がこの世界に来た理由がわかるかも知れない。
運良く今日はダイナーも休み。私は師匠に置き手紙を残すと、小さな勇者の家にむかうことにした。
小さな勇者の家は、師匠の家の正面だった。
なるほど、たしかにここからなら、師匠の家のリビングが丸見えである。
だが小さな勇者の親は仕事で帰りが毎晩遅いらしく、私の正体を知っているのは彼だけのようだ。
それに胸をホッとなで下ろしていると、小さな勇者がゲームとやらをテレビに繋いだ。
映画に似ているが、ゲームとやらを使うとテレビの中の人を自在に操作ができるらしい。
なるほど、確かに画面の中に広がる世界は私の世界に近いようだ。
だが残念ながら似ているだけで同じではない。どうやら私の求める情報は得られそうもなかった。
「このゲーム、自分で好きなように勇者が作れるんだぜ」
とはいえ小さな勇者が見せてくれるゲームとやらは非常に興味深い。
それに感動していると小さな勇者は私に似た勇者を作ってくれた。
「私は魔王だが、勇者になれるのか?」
「闇の魔法使いだったけど、改心して勇者の仲間になったことにするよ」
外見まで私に似せて作られた闇の魔法使いは、小さな勇者の手によって正義の心を植え付けられていく。
「なかなか格好良くできたな。俺のパーティメンバーにいれよう」
「勇者の仲間になる日がこようとはな」
「さあ、こっからは魔王が自分で操作するんだぞ。アクションRPGだからな!」
アクションRPGについて理解出来ないうちに、私の分身は小さな魔物にタコ殴りにされていた。
「…強そうなのは見た目だけだな」
まあレベルが低いから仕方がないかと小さな勇者に言われ、私はちょっと悔しかった。
悔しさのあまり適当にボタンを押していたら、物凄く強い魔法が出た。
「やれば出来るじゃん」
「一応魔王だからな」
でもその後、私の分身は魔物に倒され、最後は小さな勇者に足を引っ張るなと怒られた。
現実の世界と同じく、テレビの中の世界でも修行は必要なようだ。