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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と友達の章
24/102

Episode21  集合

 前々から気になっていたことがひとつある。

 それは、店のカウンターの上に飾られた1枚の写真という絵画だ。

 今日もそれをじっと眺めていると、師匠が私の横に並んだ。

「あんた、これよく見てるわよね」

「師匠が、師匠に見えないから不思議なのだ」

 写真には大人の男達に囲まれて笑っている師匠が写っている。その笑顔は今よりもずっと明るくて、何故だかそれを見ているとドキドキする。

「これ、父さんが生きてたときに撮った集合写真なの。周りにいるのは、当時の従業員よ」

「前は人が沢山いたのだな」

「まあね」

 そう言う師匠は凄く寂しそうで、それを見ているこちらまで何故だか切なくなってきた。

「父さんが死んでからお客さんも減っちゃって……だからみんな、やめちゃったの」

「師匠は、みんなに戻ってきて欲しいのか?」

「寂しいのは確かだけど、みんなの生活を支えるほどの稼ぎはないもの。だから無責任に帰ってきて何て言えない」

 写真を見上げる師匠の顔は、写真の中の師匠より辛そうに見えた。

 師匠は年頃の娘にもかかわらず、責任感が強い。

 だからこそこうしてダイナーを経営出来ているのだろう

 けどそれは、何かとても大切な物と引き替えに得た物なのかも知れない。

 例えば私が、死と引き替えにここに来たように。

「師匠はもう少し素直になっても良いと思う」

「何よ突然」

「私は、写真の中の師匠の方が好きだ」

 苦労や我慢で笑顔を曇らせるには、師匠はまだ若い。

「だからまた、こうやって笑ってくれ。辛い時や苦しい時は、私が側にいるから」

 私の言葉に、師匠は突然手で顔を覆うと、トイレに駆け込んでしまった。

 また何か失礼なことを言ったのかと思い、慌てて女子トイレの扉に縋り付けば、師匠がドア越しに五月蠅いと怒鳴る。

「もしかして腹が痛いのか? 下しているのか?」

 尋ねた次の瞬間、内側から思い切り開かれた扉が鼻に激突した。

 あまりの痛みにしゃがみ込むと、トイレから出てきた師匠に殴られた。3回も。

「もう少しデリカシーを持て!」

「デリバリーが何かよくわからないが、努力する」

 鼻を押さえる私の横を、師匠が早足で通り過ぎていく。その目が赤くはれていたので私は慌てて師匠に縋り付いたが、結局その場でもう一度殴られ、それ以上の言葉は重ねられなかった。


 けれどその日から、ほんの少しだけ師匠の笑顔が写真の中の笑顔に近くなった気がする。

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