Episode16 プラモデル
師匠の家に住むようになってから、私は「買いもの」という手伝いをするようになった。
家で使う生活用品、食料などをスーパーと呼ばれる道具屋で購入するのだ。
師匠は学業とハンバーガーで忙しい。なので、家のことくらいはしたいと考えていた私に、師匠が与えてくれた仕事が「買いもの」である。
しかし、これが非常に難しい。
今でこそだいぶ慣れたが、最初は牛乳と洗濯用洗剤をよく間違えた。
そのたびに師匠に怒られた。
でも、似たような容器に入っているのが悪いと思う。
私の国では牛乳と言えば瓶に入っていたのに、この街の牛乳は洗濯用洗剤そっくりの大きなプラスチックボトルに入っているのだ。とても良い迷惑である。
しかし私は魔王と呼ばれた男。どんな強敵を前にしても、降参するわけにはいかない。
毎日師匠に殴られているうちに、私は買いものでも免許皆伝を貰えるようになった。
牛乳と洗剤はもう間違えない。シリアルと犬の餌を取り違えたりはもうしない。
だが、余裕が出てくると今度は新しい問題が私を悩ませた。
買うものを間違えないことだけに目がいっていた頃は気付かなかったが、このスーパーという道具屋には、魔王の心を魅了するほど面白いものが沢山売られているのだ。
人が十人は入れるテント。
エンジンのついていないバイク。
妖精が入っているのかと思うほど良く弾むボール。
それらはとても興味深く、そして購買欲を誘うのである。
その中でも、私が一番気になっているのは手で持てる大きさの車の模型だ。
プラモデルと言うらしいそれは、とても細かいパーツを自分で組み立てて遊ぶ玩具らしい。 非常に興味がある。だが、小さい割にこれはとても値が張るのだ
計算したところ、私のお小遣い半年分である。
半年。
かつての世界にいた頃は時間の長さなど気にもとめなかったが、この世界にきて師匠から時間の大切さを教えられた今、それを短いとは思えなかった。
とはいえ欲しい。あれはどうしても欲しい。
なので、私は自分の部屋に貯金箱というやつを置いた。師匠の部屋に転がっていた子豚さんの貯金箱だ。
「あんた、貯金なんてして何買うつもり?」
ナイフ? 銃? と師匠は失礼なことを言う。魔王だからと言って、武器マニアというわけではない。それに、銃やナイフであれば我が相棒に頼めば変形してくれる。
「プラモデルだ」
「そんなの、ガレージに沢山あるわよ」
いきなり、子豚さんがお役ご免になった。
「親父が好きだったの。バカみたいに沢山買って、作り終わるより先に死んじゃった」
だから好きなの作りなさいと師匠は笑う。
言われるがままガレージに行けば、確かにそこにはプラモデルの山があった。
その上種類は様々だ。車はもちろん、潜水艦や飛行機や列車など、私がまだこの目で見たことがない乗りものまである。
「師匠」
「何?」
「あなたの父上は、まさに神だな」
子豚さんの中のお金は、今度師匠が墓参りに行くときの花代にしよう。
そう決意し、私はプラモデルの山に飛び込んだ。
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