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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と師匠の章
15/102

Episode13 寝たふり

 その日は朝から体調があまり良くなかった。

 こちらの世界に来てからずっとハンバーガーだけで生活していたが、やはりそれだけでは良くなかったようだ。

 だが血を拝借出来るような相手はいない。墓場も近くにはない。

「あんた、顔色悪いけどどうしたの?」

 そして運が悪いことに師匠に体調不良がばれた。

「きっと食あたりだろう」

 だから大丈夫だと笑って店の掃除に戻ろうとしていたとき、唐突に体が傾いだ。気がついたときには頭からテーブルに突っ込んでいた。



 その後数時間の記憶が私にはない。ただ気がつけば白い布で囲まれた寝台の上に横になっていた。

「原因がわからないってどういう事ですか!」

 聞こえてきたのは師匠の怒声だった。

「ですから異常は見あたらないのです。ただ血圧と脈が低下していて」

「あんた医者でしょ!いいから、こいつを直してよ!」

 師匠の声がまるで泣いているように震えていた。だから私は寝たふりをしている事も出来ず、側のカーテンを開けた。

 起きあがった私に医者は信じられないという顔をし、師匠は涙で潤んだ目で私を見ていた。

「元気になった。だから、帰ろう」

 本当は元気ではなかった。でも、ここいいても何も解決しないことは明かで、多分師匠もそれに気付いたのだ。

 泣きながら抱きついてきた師匠を抱え、私は医者に礼を言って病院を出た。


 

 師匠の運転する車が町を出ると、既に日は傾きかけている。

 本当は家に帰るはずだったが、夕日に染まる荒野が見たいという私の言葉に、師匠が車を走らせてくれたのだ。

「窓を、開けても良いか?」

 私が尋ねると、師匠は頷いた。

 窓を開け、そこから私は頭と肩を出す。

 私はこの、荒野の乾いた風と土の香りが好きだ。

 私がもといた世界に比べるとここは緑も少なく、生物の影もあまりない過酷な地だ。

 だが地平線の向こうから太陽が登る朝や。鮮やかな赤い世界が闇に包まれてゆく黄昏時。そして宝石をちりばめたような荒野の夜空。

 時間によって移り変わるこの世界の輝きは、私を虜にしてやまない。

「魔王…」

 ガラにもなくセンチメンタルとやらに浸っていた所為だろう。師匠が心配そうな顔で私を見つめていた。

「ん?」

「死んだりしないよね」

 風にかき消えてしまいそうなほどか細い声で、師匠は言う。

 だから私は笑った。

「安心しろ。だから窓を開けたのだ」

 そういうと、私は病院から拝借してきた物をポケットから取り出す。

 直後、師匠が思い切りブレーキを踏んだ。危ないとは思ったが、どうせロクに車も来ないので問題はないだろう。

「あんた、それ!!」

「魔法で盗んだのだ。沢山置いてあったから」

「だからって、取って来ちゃ駄目だろう!」

 そう言って師匠が指さすのは、私が持っているパックに入った血液だ。

「安心しろ、師匠から頂いたお小遣いを置いてきた」

「いくら」

「10ドル」

 師匠が、力無くハンドルに体をもたれた。

「ああそうだ、後ろの窓も開けた方が良いぞ。血のにおいがついてしまう」

「そんなことより、そんな少なくて良いわけ?」

「これでも多すぎる位だ。ワイングラス半分で、十分だからな」

 私がいうと、師匠はようやく車を走らせた。

「それだけで良いなら、欲しくなったら私にいなさいよ」

「買ってきてくれるのか?」

 ちがうわよ馬鹿!と私を殴った後、師匠は苛立ちを抑えた声で続けた。

「私、血の気が多いからけっこう献血とかするし。別にあんたになら、多少くれてやっても良いかなって」

「よいのか?」

「し、死んだりはしないわよね!」

「安心しろ、吸血行為で人を殺したことはない」

「あんた、本当に魔王?」

「人が死ぬほどの血液だぞ、こちらの腹がはち切れてしまう」

 私がいうと、師匠はおかしそうに笑った。


※1/24誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

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