Episode12 リラックス
「あんたさ、ずっと店のソファーじゃつらくない?」
ある晩、店の片づけを終えた師匠がそう言った。
「多少かたいが、睡眠には問題ない」
「でも、ちゃんとしたベッドで寝たいとか思わない? ここじゃリラックスも出来ないでしょ」
「屋根と寝床があるだけで私は幸せだ」
それは本心だったが、どういう訳かその日、師匠は私を無理矢理車に乗せた。
何もない荒野を1時間ほど走り、以前服を買った街へ入って更に15分ほど走ると、そこは閑静な住宅街だった。
店の周りとは違い緑も多く、師匠が車を止めたのも芝生の敷き詰められた広い庭がある家だった。
「いい家だな」
「私の家よ」
「そうか。一人暮らしなのに広いな」
「昔は両親と暮らしていたから」
「そうか」
会話が途切れた。師匠は真剣な顔で何かを考えている。
そう言うときに声をかけると怒られるので、私は窓の外から景色を眺めてのんびり待った。
「…誤解はしないでよね」
きっかり5分たった後、師匠は何故か睨むような表情で私に行った。
「あんたよく働いてくれてるから、だからこれはご褒美」
「ご褒美?」
「親父の部屋、使わせてあげる」
「それは、同棲という奴か」
「だから誤解しない!」
事実を述べたつもりだったが、何故か師匠に殴られた。
「あんたが何かしたら、すぐに追い出すから」
「大丈夫だ。皿やグラスは割らない」
「いや、そう言う事じゃない」
「食料を勝手に食べたりもしない」
「…犬か、あんたは」
「あと、寝室も綺麗に使う」
私の言葉に、師匠は呆れたように笑い、車のドアを開けた。
「何か馬鹿らしくなってきたわ」
そして彼女は、私の座る助手席のドアを開けてくれた。
「食べ物も好きに食べて良いし、部屋は好きに使って良い」
「しかし手持ちがない」
「学校が始まったら掃除とか家事をお願いするから、それでチャラ」
「それだけで良いのか?」
「あんたが言ったとおり、一人じゃこの家広いのよ」
そう言って差し出された師匠の手を、私は取った。