AnotherEpisode1 「あんたが言うと冗談に聞こえない」
Episode10話 別視点です。
パーティに魔王を連れてきたのは間違いかも知れないと、私は思い始めていた。
入り口から楽屋に入る僅かな間だったが、その間にも多くの女子達が彼をうっとりした顔で見つめていたのだ。
ついつい忘れがちだが、魔王は顔だけは良いのだ。顔だけは。
とはいえ、別に嫉妬しているとかそう言うことは断じてない。別に魔王とはなにもない。たまたま家の外にいたから拾っただけの赤の他人だ。
でも一応魔王だし、何か間違いがあるといけない。
だからついつい、彼に色々な約束を取り付けてしまったのだ。そしてそれを、魔王は律儀にメモなんか取っている。
ひとつくらい嫌だとか出来ないと言えばいいのに、魔王はいつも私のいうことを全て真に受ける。まるで犬だ。
「私は殆ど舞台の上だから、何かあったらスティーブに聞いて。あいつも来てるから」
「了解した。でもその心配はない」
「大丈夫?」
「私はつねに、師匠の側にいる。舞台袖から一歩も動かないつもりだ」
「いや、でもさすがにそれはつまらないでしょ」
「今日は、師匠の歌う姿を見に来たのだ。だからずっと見ている」
犬。それも忠犬過ぎる魔王は、そんなことをさらりと言ってのける。
犬だからわからないのだ。そんな真面目な顔で、甘い声音で言われたら世の中の女子がどう思うか。
「そう言うセリフ、あんまり言っちゃ駄目よ」
「セリフ?」
「あんたが言うと冗談に聞こえない」
私の言葉を、魔王はちっとも理解していない表情で頷く。
頭の悪さも、犬並みだ。
※11/5誤字修正致しました(ご報告ありがとうございます)