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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王とハンバーガーの章
10/102

Episode09 毒舌

 常日頃からこの店を取り巻く荒野は暑いが、その暑さがさらに増し始めた頃、師匠の友人という少女が訪ねてきた。少女とは違いこぎれいと言うか見目麗しいタイプの令嬢である。

 厨房にいた少女の変わりに応接をしたところ、師匠とはハイスクールという学校でともに勉学をいそしんでいる仲らしい。

 日頃から常に店にいるので学校に通っていないとばかり思っていたが、どうやら夏休みという休暇中故に1日中店を開けていたようだ。

 普段は学校が終わる6時過ぎから夜中の2時までが営業時間らしい。

 そこまでの説明を聞いて、また一つ師匠について詳しくなった気でいたとき、師匠がこちらに気づいて厨房から出てきた。

「もしかしてまた例の件できたの?」

 師匠の登場に、少女は師匠の方へと駆け寄った。うむ、走り方も師匠より女性らしく可憐だ。

「おねがいよ。あなたの歌があれば盛り上がること間違いなしなの」

「仕事が忙しいの」

「とにかくもう一回考えて、ね?」

 師匠の友人はそう言うと、慌ただしく店を出て行った。

 残されたのは師匠と私の二人のみ。もちろん私は、師匠にこの展開の解説を求めるべく熱い視線を向けたが、師匠は見事なまでに無視を決め込んだ。


 だがその夜、いつもはさっさと車に乗って帰ってしまう師匠が、どういう訳か深夜の3時までコーヒーを飲んでいた。

「あんたさ…」

 コーヒーを入れて30分もたったところで、師匠は苦虫をかみつぶしたような顔でようやく口を開く。

「私の先生とか、やってみない?」

「唐突だな。ちなみに、どういう意味だ?」

 尋ねると、いつもより覇気がない声で師匠は続ける。

「昼間来てたあたしの友達いたでしょ?あの子がパーティの企画やってるんだけど、そのテーマが今年はカントリーでさ」

「カントリーというのは、師匠の歌うあの歌か」

「そう。で、そこで歌わないかって言われたのね」

 それはすごい事だ。

「だがなぜ、私が先生なのだ」

「私ってさ結構鈍りもキツイし口も悪いでしょ。前に舞台で歌ったとき、トークで大失敗してさ……」

 異邦人故あまり気にしなかったが、確かに師匠の言葉遣いは悪い。そして発音も、どことなく他者と違う気もする。

「魔王のくせにさ、あんたの英語完璧なのよ。だから教えてくれないかなって」

「私自身は英語を喋っているつもりはないのだが」

「一緒にセリフ考えて、普通に読んでくれればいいから」

「それで師匠の役に立つのなら」

 でも、と私は師匠に笑いかけた。

「私は師匠のしゃべり方は好きだぞ。鈍りとやらも心地良い。…まあ、たしかに多少毒舌だが私はそれも心地良いと思う」

「…褒めてるの? それとも、マゾをアピールしてんの?」

「褒めたつもりだが、間違えただろうか」

 私が笑うと、師匠はようやくほっとした顔で椅子にもたれる。

 いつもは豪傑な師匠にも、それなりに悩みはあるようだ。

 そしてそれを告白してくれたこと。その相談役に私を選んでくれたことが嬉しくて微笑むと、師匠に頭をこづかれた。

 でもそれが何故か心地よかった。どうやら師匠が言うように、私はマゾであるようだ。


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