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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
お世話になります、サンライズ
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森の探検隊。そのに。

 人の手の入っていない力強い生命の力を放つ森の中を四人の男女が歩いている。先頭の女性二人は足場が悪いにも関わらずしっかりとした足取りで進み、後ろの男性二人は周りをきょろきょろと見渡しながら後ろを歩いている。


「素晴らしい、素晴らしいよ。さっきから装置が異常なほどの魔力を感知している。文献で見た東の聖域にだって負けてない」


 左手に妙な機械を持ったままレイフは感動したように呟いた。ミリアとアスは苦笑で応じるが、後ろを歩くザックはそんなこと言われても知らんと足の止まったレイフの背中をつつく。


「いきなり集落の中に転移するわけにもいかなかったから歩いてもらうことになったけど、不評じゃないようならよかったわ~」


「魔物の森を案内してもらえるのに不評なんてあるわけないじゃないか。これもミリア君のおかげだよ」


「私はついていくって言っただけだから大したことなんてしてないわよ~」


 先日ミリアはサイトウたちを訪れた際に魔物の森の探索に協力してくれないかと依頼を受けた。

 ミラが魔具を完成させるために魔物の森のものも使えないか試してみたいとの事で、気にかかっていたエバンス商会のためになるならと二つ返事で受けたミリアだったのだが、そのときのレイフの反応は凄まじかった。


「それが重要だったんじゃないか。サイトウ君はミリア君とザック君がついていくなら僕もついていっていいと言っていたんだ。君が来てくれなかったら僕はここにこれなかったんだから」


「サイトウだってそなたの心配をしてのことだったのだぞ?」


「分かってはいるんだけどね。それでもさ」


 アスが口を尖らせ蹴った石は木の根にあたりどこかに転がっていく。

 

「さあそろそろ集落に着くわ~。どこかに行ったりせずしっかりついてくるのよ~」


 一行の前方の木々が開けていき、その先に簡素な建物や人一人が楽に通れるほどの大きさの洞窟がいくつか見えてくる。整然と規則性をもって建っているわけではなく、ただ単純に住処が集まっただけという様相をもつここが魔物の森で唯一ある住人たちの集落だった。


「森の中にこんなところがあったなんてな」


「ここはかなり森の奥だからな、ザックが知らなくても無理はあるまい」


 雑談しながら進む一行を集落の獣人たちは何事かと足を止めて見つめていた。獣人はミリアやアスのようにかなり人間に近いものがいるといっても、匂いや耳など人間と異なる部分は確かに存在し獣人から見れば人間かどうかなど一目瞭然だ。


「なんかすっげえ見られてる気がするんだが」


「気のせいでなく見られておるぞ。我慢するのだ」


 視線の合った獣人たちに手を振りながらアスは何でもないように答えた。

 獣人の集落に人間がやってくるなど動けなかったサイトウを除けばジル以来なのだ。それが一度に二人も、森の王女であるアスといろいろな意味で畏敬を集めるミリアと一緒に歩いていれば嫌でも獣人たちの興味を引く。


「はいはい、あと少しで王宮だからがんばってー」


 ミリア先導されて進んでいくとだんだん住居がまばらになり一つの大きな洞窟が見えてきた。それまでにあったものの優に三倍ほどの大きさをもち、外観も明らかに手が加え整えられている。王国にある城には遠く及ばないが森の中にある王宮として不思議なほど違和感なく環境に馴染んでいた。


「父上ただいま帰りました!」


 ミリアたちが入っていく前にアスが洞窟の奥の方へ駆け込んでいくと一際大きな声が聞こえた。

 何事かと一行が洞窟の奥に入っていくとアスが喜色満面の獣人に持ち上げられている。


「よく帰ってきたな。ゆっくり休んでいきなさい。どうしたサイトウとかいうやつに愛想でも尽かしたか」


「ち、違います。今日は頼みごとがあってきたのです」


 気持ち残念そうな顔を隠すこともなく示す獣人の王にミリアは呆れ半分で声をかけた。


「王様お久しぶり~。もういい加減子離れしたらどうかしら~」


「お、おうミリアか。もしかしてアスの頼みごとっていうのはお前も関係しているのか」


「んー、私はあんまり関係してないわね」


 あからさまにホッとした様子の王にミリアが肩をすくめる。

 どうもこの王が分かりやすいのは昔かららしい。


「で、そこにいる人間二人はどうしたんだ?」


「サンライズに住んでいるレイフとザックって言うわ。森の恵みを分けてもらいたいみたいなんだけど良かったかしら~?」


「それぐらいなら構わない。よく来てくれたな、歓迎する」


 王様は一歩近づき二人に握手を求めた。レイフは多少ビクつきながらも両手で持って応じていたがザックは威風堂々と右手を差し出す。


「ほう」


「おお」


 二人が手を握るとお互いに感嘆の声が漏れた。がっちりと握り合う手は微かに震え腕には血管が浮き出ている。明らかに握手に分類すべき行為ではない。

 しばらくするとどちらともなく手を離しお互いを称える様に笑いあう。


「あ、あれが父上が言っていた男の語り合いというものか」


「僕も男だけどあれが通じるのは極一部なので誤解なきよう」


 わなわなと震えるアスを見ていたレイフは致命的な勘違いを受けないよう訂正を加える。あれが普通になってしまっては人類の半分が戦闘民族になってしまう。


「護衛を同行させようかとも考えていたが彼がいるなら問題ないな」


 ザックは黙って拳を掲げ薄く笑った。そう、男たちに無粋な会話など必要ないのだ。

 その姿はアスがきらきらと憧れの眼差しを向けるのも仕方のないものだった。

 ミリアとレイフは行く場所の相談をしていたが。


「そろそろ移動するわよ~。集まって~」


 手を上げてひらひらと動かすミリアの前に三人が集まり、指示を受け輪になるように手をつなぐ。

 ミリアは目を閉じ集中し始めた。


「まずは私の家。行くわよ~」


 ミリアたちを囲むようにして光が集まり始めた。徐々に集まった光は臨界を超え弾けるように消え、その後にミリアたちの姿はもうなかった。


 王は腕を組んで光の消えた場所をじっと見ていた。王宮の奥から出てきた后は王の後ろからそっと声をかける。


「アスたちは行ったようですね。元気そうで何よりです」


「確かにそうなんだが、なんだ、もう少しゆっくりしていっても良かったんじゃないか?」


「今日中にサンライズに帰るつもりなのでしょう。仕方ないですよ」


「そうなのか?」


「そうですよ」


 王は別に頭の回転が鈍いわけではないので理屈として理解は出来ているのだろう。ただ納得がいっていないだけで。

 そんな王を見て后は呟いた。


「もうそろそろ子離れしないものかしら」







 転移の光が消えレイフたちの目に飛び込んできたのは勢い良く水を水面に叩きつける美しい滝だった。

 光が反射する姿は美しくレイフでさえ一瞬見入ってしまうほどだ。


「ここが私の土地になっている滝よ~。きれいでしょ~」


 そこはかとなく得意そうなミリアの言葉に一同はそろって頷いた。

 ミリアは嬉しそうに笑い説明を始める。


「ここに来てもらったのはこの場所を拠点にしたいからなの。この滝に近いほど私の転移は遠くまでいけるわ~」


「ほう、それはどういった理屈なんだろう」


「私はそういうのに詳しくないから分からないわ~。ただ転移できるかなっていう範囲が広くなる気がして、実際に遠くまで転移できるようになるの」


 ミリアの話を熱心に聞いていたレイフは背負っていた袋からごそごそとよくわからない機械を取り出した。

 

「空気中の魔力が異常に高い……。それに魔力が何か法則を持っているような」


「つまりどういうことなのだ?」


「ここにあるものも十分魔具の素材になるかもしれないということだよ」


「そうか!」


 それだけ聞けば十分とアスは滝に駆け出し水に飛び込んだ。派手に音をたてどんどん水にもぐっていく。どうやら水の中に何かないか探すつもりのようだった。


「おい、このあたりに危険なやつらはいねぇのか?」


「このあたりでは見たことないわ。それにアスちゃんが飛び込んだんだからきっと安全なのよ」


 アスの五感は恐ろしく鋭い。本気で隠れてしまえばおそらく獣人が十数人で探し回っても逃げおおせてしまうだろう。

 家出したアスを見つけるために転移を駆使して奇襲をかけるしかなかったことはミリアの中で記憶に新しい。


「俺は地上のものを見つけるとするか。どんなものを探したらいいとかあるか?」


「植物を除いてこれはと思うものをどんどん持ってきてくれ。僕が片っ端から鑑定するよ」


「ならこれなんかどうだ?」


 ザックが放り投げたのはところどころ光を反射している小さな石だった。レイフが早速受け取り鑑定してみる。

 袋から取り出した怪しげな機械を使うこと三種類、レイフは困ったように笑い出した。


「十分合格だ。こんな簡単に見つかっていいものかね?」


「いいんだよ。そっちのほうがありがてえ」


「違いない。僕としても嬉しい限りだ」


 くつくつ笑うレイフにもう一つ緑色の石を放り投げザックは別のものを探し始める。

 

 本当によかった。ザックはとりとめもなくそんなことを考えた。

 ザックとミラしかいなかったころはこんなに何かが進展したことなどなかった。

 どうにかするために森に入っていっても大した成果など上がらずジルはどんどん追い詰められていった。

 森に行く回数を増やしても、時間を長くしてもそれは変わらなかった。

 

 それが今はどうだろうか。

 こんなにたくさんのやつらがジルのために動いてくれて、少しずつだが事態は確実に進展している。


 ザックは滝の流れる山に一つ化石のような模様のついている石を見つけた。顔に自然と笑みが浮かんだ。


「見つけたぞ。これはどうだー!」


 お前はなんの獣人だという勢いでアスが水から飛び出しレイフの元に走っていく。

 負けじとザックも戦利品を持ちレイフに向かって走っていった。


「俺のがいいもん見つけてやるよ」


「ほほう、いい度胸ではないか。我に勝負を挑むとはな」


 ザックとアスが競い合うように探し、ミリアが二人の探していないところを穴を埋めるように探していく。


 数時間後、ほかの場所も探しサンライズに帰ったザックの袋の中には抱えなければ持てないほどの素材が詰まっていた。

 なおレイフが幸せそうな顔をしてダウンしていたのは余談である。



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