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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
お世話になります、サンライズ
59/62

森の探検隊。

「同じようなものを見たことがあるってどういうことなんだい?」


 アスの言葉の衝撃が覚めやらないまま、ジルさんはおそるおそるといった感じで質問した。


「うまくは言えんがな。似たような見た目で何か雰囲気も同じように感じる石を森で見たことがあるのだ」


「覚えがないんだけどそれって俺も見たことある?」


「いや、サイトウは見たことないと思うぞ。店からはずいぶん離れたところで見つけたからな」


 そりゃ俺はずっと家に引きこもっていたわけだからそんなもの見たことあるわけないか。俺が見た石なんてせいぜい庭に転がってたものぐらいだし、マキュリアスみたいなきれいな石が落ちてたらさすがの俺でも記憶に残る。


「というよりな、サイトウはこの石から森に似たような感じを受けぬか?」


「どうだろう。俺にはわかんないけど……」


 似たような感じといわれたって俺はそもそも森にいた時間がそんなに長くないから、そんな繊細な感覚が分かるとは到底思えない。

 ただ少し思い当たることがある。


「もしかして森にあるものって全体的に魔法的な格が高いんじゃないかな?」


 森にいる生き物はほかの場所にいるものに比べてとても強力という話は聞いたことがあるし、そもそも森に住んでいる獣人たちの身体能力が半端じゃない。

 たまたま過酷な環境だったからそうなっていったと考える事もできなくはないけど、個人的には魔法的な格の高いものに囲まれた環境だったからだんだん強くなっていったと考えるほうが分かりやすい。


「サイトウの言うとおりかもしれないね。このマキュリアスだけど北方の渦が多発する海域でたまにしか発見されない代物なんだ。どうしてできるのかはまだ分かっちゃいないんだけど、そんなものが出来そうな環境なんて森にはないだろう? もしかしたらアスちゃんは魔法的な格の高さに反応して似たような感じを受けたのかもしれないよ」


「ってことはもしかしたら森って魔具素材の宝庫かもしれないってことじゃないですか」


 素材がたくさんあればミラの研究も進むだろうし、素材の販売という形をとって商売することも出来るかもしれない。もっと妄想するなら素材の販売という形で森と人間の交流が広まるかもしれないというまさに願ったり適ったりの展開だ。


「よくわからんが明日ミリアが来たときに付いていって、一回それらしきものを探してこようではないか」


「悪いけどお願いするよ。どんなものならとってこれそうなんだい?」


「見た目を無視するならこういった感じのものの心当たりなど多すぎて絞りきれんぞ。どんなものを持ってこればいいのだ?」


「それは……あたしもちょっと分からないねぇ」


 金色に光り輝く神々しい鉱石とかでもあれば分かりやすかったんだろうけど、アスに聞いた限りではそんなものは見たことがなくむしろ見た目からはなんら特別ということが分からないものの方が多いらしい。

 それどころか俺が森にいたころ食材として使っていたものの骨などでもなんとなくいけそうなものがあるそうだ。

 素材になりそうなものがたくさんあるのは喜ばしいけど、もう少しそれっぽい見た目をしてほしいと願うのは贅沢だろうか。


「素材になりそうなものを適当にってのは駄目なの?」


「できなくはないがな。探すのに時間がかかるものもあるからある程度指定してくれたほうが助かるのだ」


「そういわれてもねぇ……」


 実際に森を探すのはアスでどんな苦労があるか分からないのだから、その意見は最大限尊重されるべきだ。ただ俺たちでは知識がなさ過ぎてまともな指示なんてとてもできない。


「ミラに聞いてみてはどうなのだ?」


「あの子は確かに素材についてよく知ってるけどこういったことにはどうなのかねぇ?」


 ジルさん曰く知られている素材をうまく使う知識と未知の素材を探す知識は違うのではないかということだ。

 俺たちより数段上なのは間違いないが、適しているかといえば必ずしもそうはいえないだろう。


「じゃあもうあの人に頼るしかないのかぁ」


「誰か詳しそうなやつがいるのかい?」


「レイフさんですよ。俺の魔法を鑑定してくれた」


 正直苦いというか辛い記憶があるから思い出したくなかったのだけど、こうなっては仕方ないだろう。彼は魔法の鑑定士兼魔法学者と自分で言っていたし、本人に会った感じからも今回のような話の協力は惜しまないだはずだ。素材についての知識はどうか知らないけど、どうせ魔法的な格なんていういかにも魔法ですって話なら守備範囲に違いない。

 俺の表情から察したのかアスは労わるような視線を向けたが、同時に有効だろうことも分かるのだろう。なにやら渋い顔で頷いている。ちょっとむなしい。


「ああ、新聞に載ってたねぇ。あたしとしては詳しいなら頼りたいと思うけど、あんたはなんでそんな顔してるんだい」


「いえ、まぁ、大したことじゃないですよ」


「ならいいけどね……。あたしはそろそろ商会に戻らないといけないから話のほうはあんたに任せるよ」


「分かりました。ミラも呼んで話をしてみます」

 

 満足そうに頷きジルさんはひらひらと手を振って店から出て行った。

 さて、そぞろ不安しか催さない話し合いを始めましょうか。


「じゃあ悪いんだけどミラとレイフさんを呼びに行ってもらっていいかな。たぶんこの話題ならすぐに来てくれると思うし」


「うむ、いってくるぞ」


 椅子から元気よく飛び降り駆け出していくアスを「人をはねないようにね」と見送る。

 こういったとき店から出られないこの身が恨めしいがどうしようもない。せめてできることをと大して汚れてもいない部屋の掃除を始めた。





「やあやあ話は聞いたよ。ここで僕を呼ぶなんていい判断だと言わざるをえないね」


「いえいえ呼んだ今でも良かったのかと悩んでいますよ」


 案の定というべきか、すぐに来てくれたレイフさんと感謝を込め挨拶を交わし部屋の中に招き入れる。どうやらミラをそのまま呼びにいっているようでアスはいないみたいだ。


「それにしても魔物の森に魔具の素材を採りに行くなんてうらやましいね。ぜひ僕も連れて行ってもらいたいんだろうがどうだろうか」


「そのあたりはアスに聞いてください。俺ではなんとも」


 相変わらずの熱意で座る前から話しかけてくるレイフさんに苦笑が漏れる。これだけのやる気と伝え聞く能力があれば活躍してくれるのだろうけど、実際に行くのがアスである以上俺が判断することは出来ない。あとこの人を人間の例として森の人たちに考えてほしくなかったり。なかったり。


「ならアス君に聞いてみるとしよう。君には悪いがどうしても行ってみたくてね」


「俺もいずれは行ってみせますよ」


「僕も協力させてもらうよ。そのためにはもっと君の魔法を調べないとね」


 気持ちはとても嬉しいのだが、ここで素直にハイと答えられないのは俺の感謝が足りないのか。微妙に笑ってお茶を濁す日本人的対応でレイフさんに応える。


「サイトウよ、今帰ったぞ」


 なんだかんだで時間を潰していると、ミラを連れだって一仕事終えた顔のアスが帰ってくる。幸いミラもこの時間に来てくれたようでありがたい。


「君が魔具職人として名高いミラ=セフィラスか。僕はレイフ=グリント、一度会ってみたいと思っていたんだ」


「よろしく」


 魔法に携わるものとして興味があるのかレイフさんは積極的に話しかけ、対するミラも口数こそ少ないものの話にしっかり答えていて嫌がっているわけではなさそうだ。知識を持つ人同士が話し合えば何か新しい発見があるかもしれない。ぜひ積極的に情報交換をしていってもらいたいところだけど、ちょっと後に回してもらおう。


「それで今日集まってもらったのは、転移の魔具作成に当たって森で材料を調達してきたいんですけど、どんなものがいいのか考えてもらいたいからなんです」


「全部持ってこれればいいのだがな。探すのに時間がかかるのである程度絞ってもらえると助かるのだ」


「それなんだけどね、絞るといっても情報が少なすぎて難しい。何かもう少し聞かせてもらえるものがあると助かるんだけどね」


 魔法的なものだからどうにかなるかも知れないと思っての相談だったのだけど、やはりいきなり絞るのは難しいらしい。レイフさんだけでなくミラも頷いている。


「とはいってもな。そういったことを話せばいいのだ?」


「心当たりの素材の属性、通魔率、魔力強度、素材強度。話してもらいたいことはいろいろあるんだけど何か分かるものはあるかい?」


 レイフさんの話を聞いて頭に引っかかるところが何一つない単語が並ぶ。ちらと横を見てみると同じくこちらを見ているアスと目が合う。いや、こっちを見られても困る。


「でもこれが分からないとほんとにどうしようもないんだよ。申し訳ないけどこれじゃあ力になれない」


「私も同じ」


 自業自得とはいえここまでばっさり切られてしまってはどうしようもない。唯一情報を知るアスが困った顔をしていてはこれ以上話しても進展はないだろう。


「となればやっぱりミラ君か僕がついていくしかないだろうね。ここは僕が立候補させてもらうよ」


「そ、それは困るぞ。それなりに危ない場所にあるものもあるのだ。我一人ではとても守りきれん」


 どうも目当てのものは魔獣が生息する地区にあるものが多いらしい。探すのが短時間で終わりそうなものに絞ったとしてもとても連れて行けんとアスは首を振った。


「つまりほかにも戦力がいれば大丈夫ということ?」


「誰かいれば不可能とはいわんが……」


「ならあの馬鹿も連れて行けばいい」


 馬鹿という言葉と一緒にミラから画像でも送られたかのように頭に浮かぶザックさんの顔。

 確かに以前森に単身突入して売れそうなものを探してくるといっていたから、少なくとも足手まといにはならないはずだ。


「それならいいんじゃないの?」


「荷物も運べて強くて丈夫。おすすめ」


 ミラのセールストークに心動かされそうなのかアスは「ムムム」と腕を組んで悩んでいる。

 危険を考えてのことだ、しっかり考えてほしい。とりあえず「大丈夫だよ」とアスににじり寄るレイフさんを止めておく。


「わかった。ミリアもついていってくれるというならば同行を認めようではないか」


「さすが話が分かるね! 出発はいつにするんだい。一時間後、今すぐ?」


「明日になってからだぞ。落ち着くのだ」


 レイフさん、興奮するのは分かるんですけどもう少し紳士的に興奮してくれないでしょうか。

 これはアスに人間はみんなレイフさんみたいな人ばかりじゃないということを伝えてもらうよう頼まなければ。


 なんとなくため息をつき一呼吸、喜びアスに話しかけているレイフさんから目を離し、静かにしているミラを見る。


「なんかレイフさんが行くことになりそうだけど、ミラは森に行かなくてよかったの?」

 

「彼が行ったほうがいい。私は少しでも研究しないと」


 そこまで根をつめていいものかは分からないが時間が少なくなってきていることは確かで、いまさら門外漢の俺が口出しすることでもないだろう。俺に出来るのは研究に専念できる環境を整えることぐらいなのだ。


「今回のことが終わったらさ、みんなで一回森に遊びに行こっか。何日か泊まりで」


「ん、それは楽しみ」


 ベイビーバードの店内でみんなが笑い合えるような未来が来るように今は全力を尽くすのみだ。

 こんな時間がもっと続いていくようできることをしていこうと決意を新たにした。

 

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