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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
お世話になります、サンライズ
35/62

筋肉と料理の腕は比例するっ。 かなぁ?

 商業都市サンライズ


 サンライズについて俺が知っていることは少ない。せいぜい商業都市であり、エバンス商会の本拠地であるということぐらいだ。しかし、だからこそとても楽しみなのだ。一体なにがあるのだろう、一体どんな人がいるのだろう――


 そんな期待を胸に目を開けると、そこは民家の中だった。こじんまりとしたタンス、きれいに整えられたベット。窓から見るにおそらく二階だろうか?


「サイトウ、アスちゃん」


 名前を呼ばれそちらを向くと、腕を組みにんまり笑ったジルさんがこちらを見ていた。


「商業都市サンライズ、エバンス商会副代表、ジル=エバンス」


 ジルさんは窓に向かってつかつかと歩いていく。


「二人の来訪を歓迎するよ!」


 バン! と勢いよく窓が開き、街の空気が、雑踏の賑わいが飛び込んでくる。

考える間もなく、光に群がる虫のように窓に向かいそして――


「だっ! ……うぉぉぉぉ」


 顔から制約の壁にぶつかった。


「…………」


「…………」


「…………」


「ミリア……頼んでいいかい?」


「任せて」


 目に涙をためてうずくまっていると再び転移の浮遊感。何事かと思って顔を上げると、そこは屋根の上だった。そして聞こえる咳払い一つ。


「二人の来訪を歓迎するよ!」


 ……ちょっと待ってもらっていいですか?





「悪かったね。この家って道に面してるからそうなることを予想しとくべきだったよ」


「普通そんなところまで気が回りませんって。気にしないでくださいよ」


 申し訳なさそうに頭をかくジルさんに、気にしていないと笑いかける。まだ納得していない様子だったが本人が問題ないといっているのだ、これで終わりということにさせてもらおう。


 さて改めてサンライズの風景に目を向けると、そこには久しぶりに見る『人の町』が広がっていた。眼下の道にはたくさんの人が闊歩し、道の両端に立てられている屋台で行われている商売が独特の熱気を作り出している。いたるところに人工物が溢れ、自然物なんて門の外にしかないのではないだろうか。


「人だ、人がこんなにおるぞ!」


「サンライズはそれなりの大きさの都市だからね。でも王都のほうにはもっと人がいる都市がいくつもあるんだよ」


 そんなジルさんの解説を、聞いているのかいないのか、「おー」と眼下の光景に釘付けになっているアス。そういえば人と会ったのは俺が初めてとか言ってたっけ。それならこの光景に目を奪われるのも仕方ないのかも知れない。


「で、だ。せっかくだから簡単に、サンライズの地理について説明しておくよ」


「はーい、先生」


 無駄に笑顔で手を上げながら返事をする。それを見て、アスも遅れて手を上げる。


「ふふっ、いい返事だ。じゃあ説明するよ。まず左手に見えるのがあんたたちのいた<魔物の森>さ。それとは逆側、つまり右手のほうが王都だったりがある方向になるね」


 説明をしながらその方角に向かって指をさす。


「それで後ろに見える山が<サンライズ鉱山>、それで正面のほうに見えるひときわ大きな建物が市長の邸宅だよ」


 そういってジルさんが指差す邸宅は、ここからでも分かるほど豪華な造りになっていて明らかに周りの建物から浮いているように感じる。


「あれ、貴族みたいな人でも住んでるんですか?」


「うーん、そういえばそうなんだけどね……まぁそれはおいおい説明するよ。この場で説明しなきゃいけないことはこれぐらいかねぇ? 下に人を待たせてるからそろそろ降りてくよ」


「って人待たせてるなら早く降りないと駄目じゃないですか」


「ああ、そのことなら気にしなくていいよ。前もってこうなることは言ってあるしあいつらのことだ、適当に何かして時間つぶしてるさ」


 いつもは細かいところにまで気をつけているはずのジルさんにしては珍しい発言だ。よほど親しい関係なのだろうか? 


 いきなり現れては驚かせてしまうというミリアの提案で一度二階へ、その後階段で一階に下りていった。ここに来る際まず二階にやってきたのもそういう理由らしい。俺のところに来た時のことを思い出しミリアを見ると、「親しい相手なら問題ないわ~」と嬉しいのか嬉しくないのか微妙な一言をいただいた。


 そうして階段を下りていくと、スパゲッティを食べる大男と分厚い本読む女の子がいた。


「待たせたね、話してた通りこっちの子が新しくうちの従業員になる子だよ!」


 そのセリフとともにばしんと叩かれた背中の痛みに耐えながら、とりあえず笑って挨拶をしておく。

 そしてそれに真っ先に反応したのは女の子のほうだった。今まで読んでいた分厚い本をしおりも挟まず閉じると、椅子を倒すんじゃないかという勢いで立ち上がりこちらに歩いてきた。


「ミラ=セフィラスという。よろしく」


 非常に簡潔な自己紹介とともに手を伸ばしてくるのは高校生ぐらいであろう女の子。大きな魔女っぽい帽子をかぶり、その下に見える無表情の顔からは少々暗そうな印象を受ける。しかしその中に不釣合いなほど光輝く瞳があり、それはこちらを見つめていた。


「ええっと、こちらこそよろしくね」


「へぇ、ミラが初対面の人にこんなに興味を示すところなんて初めてみたよ。とりあえず立ち話もなんだし座らないかい?」


 じっと見つめられ戸惑う俺を助けるように、茶化した様子でそう提案するジルさん。ミラ……さんも納得したようでテーブルのほうに戻っていく。

 それにしてもなんで俺はミラさんに睨まれたのだろう。もちろん初対面だから失礼なことをするタイミングもないし……まぁ聞いてみればいいか。


「ところでこの男は一体何なのだ?」


 全員が椅子に座ったところでアスがそう切り出す。彼はミラさんと挨拶しているときも、みんなが椅子に座ろうとしているときも、視線こそこちらを向いていたがずっとスパゲッティをたべていたのだ。気にするなというほうが無理だろう。


「あー、こいつはねぇ……」


「悪いな……モグ……俺は……モグ……」


「『ごめんなさい、僕はザック=ラグといいます』と言ってる」


 ミラさん、さすがにその口調は無理が……


「ミラ……モグ……そんなこと……言って……」


「『ミラちゃん』……きもい。『ミラ、代弁してくれてありがとう』と言ってる」


「あー、もう! ミラはふざけた翻訳をしない! ザックは食べるか喋るかどっちかにしな!」


「わかった」


「……モグモグ」


 ついにジルさんの雷が落ち、事態は収束した。俺なんか余波だけでびくっとしてしまったというのに、二人はいたって慣れた様子だ。ザックさんにいたっては、食べ続けるというありえない選択すらしてしまっている。


「……はぁ、とりあえずサイトウとアスちゃんから自己紹介してもらっていいかい? この二人は信頼できるけど、あんたたちのことはほとんど話してないから……そのつもりでね」


 少し含みを持った言葉を聞き考える、つまり彼らは俺の魔法や今まで住んでいた場所、アスの種族を知らないという訳だ。はてさて、どうしたものだろう? 

 俺のサンライズでの目標は人間と獣人の関係をよくすること、土地購入のためにお金を稼ぐこと、ジルさんの役に立つこと、だ。

 すべての目標達成に必要なため魔法のことについて話すのは確定なのだが、住んでいた場所については少し迷う。ミリアを見ても特に反応がないところを見ると、獣人に対する固定観念は持っていないようだが……アスに対しても同じ反応とは限らない。

 一つ目の目標達成のためには住んでいた場所を話すのは必須なのだが、それを言えば高確率でアスの種族が疑われてしまうだろう。それでアスに不利益があるようだと……。


 だめだ、考えがまとまらない。

半ば助けを求めるように視線を向けると、こちらを見ていたアスと目が合った。アスはニヤリと笑うと一言。


「我は自分の生まれを恥じたことなど一度もない」


 その一言で覚悟が決まる。どうせ隠し事などうまくないのだ。


「始めまして。<魔物の森>から来ました人間、ユウ=サイトウと申します。このたびはエバンス商会の従業員にしていただきサンライズにやってきました。一応創造系の魔法を使えます。えっと……よろしくお願いします」


「我は<魔物の森>の王女、アスフェルという。今回はサイトウの監視という形でサンライズに来た。よろしく頼むぞ」


 そう言ってアスはかぶっていた帽子を脱ぐ。そこには威風堂々と、獣人の証たる耳がピンと立っていた。

 二人とも俺たちを見て驚いたように目を見開いた。それでもザックさんはスパゲッティを食べ続け、食べ終わったところでジルさんに向けてこう言った。


「おまえ、こんな面白そうな奴らどうやって引っ掛けてきたんだ?」


 ……えっ?


「あたしが引っ掛けたのはサイトウだけで、アスちゃんはサイトウについてきたのさ。引っ掛け方は……成り行きかねぇ?」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。他に言うべきことがあるんじゃないですか?」


「魔法は見せてほしい」


 ミラさんの平坦な声音が滑り込む。


「ミラさんもそうじゃなくて」


「ミラでいい」


 駄目だ、話がかみ合わない。


「お前が言いたいのは獣人うんぬんのことだろ? 俺らはミリアを知っているから偏見はない、さらに……俺は獣人だろうが怖くねぇ!」


 そう言ってただでさえすさまじい、極太ワイヤーを束ねたような筋肉をさらに隆起させる。まるで獣人だろうが負けはしないと主張するように。


「種族の違いで排除するならザックのほうが先。これのが人から遠い」


 ……ミラは堂々と問題発言ぶちかましてるし。


「うむ! 気持ちのよい者たちではないか」


「あたしが信頼してるんだ、当然じゃないか」


「ふふふ~、二人とも相変わらずね~」


 なにこれ、順応できてないのって俺だけなの? 正真正銘、常識を知らない奴だけが常識に縛られているという現実。一体なんの皮肉なんだか。

 ……まぁいっか、いい人に巡り合えたってことで。


「あ、はい、もう納得しました」


「よし、なら次は俺の番だな。俺はザック=ラグ、ここサンライズで<闘魂亭>っていう店を経営してる料理人だ」


 あれ、おかしいな。アスと二人、顔を見合わせもう一度確認する。


「すいません、店の名前はいいんです、職業だけもう一度いってもらっていいですか?」


「料理人だが?」


 ……………………。


「あなた達の『コロシアムに帰れ』だとか『丸焼き生食いは料理じゃない』という気持ちはよく分かる」


「ところがどっこい、こいつは結構な料理人でね。その上『料理はできたてのうちに食べなくてはいけない』っていう信条まで持つ料理バカときたもんだ」


「ったりまえだ。できる限り最高の状態で食べることが、食材に対するせめてもの礼儀だろうが」


 なるほど、だから挨拶もそこそこスパゲティを食べていたのか。どうやらザックさんは戦士どころか想像以上に料理人らしい。今度何か食材をプレゼントしよう、きっと大切に使ってくれるはずだ。


「じゃあもう一度ミラも自己紹介してくれるかい?」


「ミラ=セフィラスという。魔具士をしている。よろしく」


 相変わらず簡潔な自己紹介が返ってきた。

しかし、ミラ=セフィラス……どこかで聞いたことがあるような……。


「もしかして店で使ってたフリーズボックス作ってくれた人ですか?」


「そうさ、よく覚えてたね。

ミラ、この前作ってもらったフリーズボックスはこの子たちの注文さ」


 再びこちらをじっと見つめてくるミラ。感情の変化が乏しいのか無表情ながらも、しっかりと力を持つ瞳に見つめられるとなんか、ひるむ。


「しっかり動いてる?」


「うん、使っててまったく不自由しなかったよ」


「そう」


 満足したのか満足してないのかよく分からない返事が返ってきた。自分の作ったものの確認をしてきた以上、仕事に対して熱心でありいい子なのだろう。少々会話について違和感を感じないでもないが十分許容範囲内だ。


「じゃあ自己紹介も終わったことだし、次はサイトウの今後について話をしようかね」





新キャラ二匹追加です。

それにしても名前考えるのってほんと難しいですね。



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