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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
34/62

実は気軽に戻ってこれるっていう……。

うあぁぁぁぁ、忙しいしうまく書けないしこれなんて二重苦なんでしょう?




 食事会の翌日、いつもより少し遅めに目が覚めた。

こちらの世界に来てからというものほぼ毎日、早寝早起きの健康優良児を貫いていたため久々の夜更かしが響いたのだろう。

 未だにくっつこうとしている瞼をこすりこすり顔を洗いに行く。顔を洗ってなお俺を布団に誘う眠気には感心するが、昼前にはミックさんとモールが来るので素直に従ってやるわけにはいかない。

 かごからリンゴを一つ取ると外に出て深呼吸一つ、その場でリンゴをかじり始める。――うん、やっぱりおいしい。

 

 しばらくシャクシャクとリンゴをかじっていたが……一つ丸ごとは多かった。室内に戻り、残った分をフリーズボックスの中に入れておく。気分で丸かじりしないで最初から切っておくべきだったなぁ。


 微妙な反省を残した朝食を終えるとやることが無くなってしまった。移動のための休業ということで、今日明日と店を休みにしてあるので仕込みをする必要もない。仕方がないので以前暇なときに作っておいた紙製のオセロを取り出す。手作りなので粗末なものだが、アスと一緒に楽しめることもありなかなか優秀だ。


 ペタン、クルッ、ペタン…………


「……よし、白が四つ角を取ったぞ」


 一人オセロという荒業をこなしていたが気分がだんだんと寂しくなってきた。駄目だ、このままでいると人間として大切な何かを失ってしまう気がする。


「サイトウよ、来てやったぞって……なにをしておるのだ?」


 来た、救いの女神よ。


「おはよう、見ての通りオセロだよ」


「いや、それは分かるのだが……それは二人でやるものと教わった気がするのだが?」


 アスは不思議そうに、至極まっとうな質問をしてくる。


「うん、そう教えた記憶があるね」


「一人でやって楽しいのか?」


「楽しそうに見える?」


 それを聞くとアスは聖母とか、その辺のレベルの笑みを浮かべた。極悪人すら救われそうな笑みなのになぜか今の俺にはそれが痛い。


「サイトウ、遅くなって悪かったな、退屈だったであろう。我が相手をしてやるからな」


 真摯な言葉が胸に刺さる。優しさは時に凶器になりえると知ったある日の朝。





 そんなこんなで時間を潰しているとモール、続いてミックさんがやってきた。さすがにオセロをしながらではまずいと思い、うーうー唸っているアスを放置して挨拶に行く。


「こーするとあーなって、あーするとこーなって……うぬー!」


 ミックさんを出迎えていると後ろからそんな声が聞こえてきた。その盤面はすでに詰んでいるのさっ。


「じゃあアスは無視してさっそく始めてもらってもいいですか」


「はい、お任せください」


 意外に苛烈なミックさんのスルーに驚きつつもくるりと振りかえると、へたりと倒れているアスを慰めていたモールにも声をかける。


「任せてください!」


 モールの元気な返事を聞き、にこりと頷くと再びアスの前に座る。アスも少しは回復してきたのか、「もう一回勝負だ」とせっついてきた。


「料理が運ばれてきたら終わりだからね」


「もちろんだ!」


 厨房から聞こえてくる調理の音をBGMにオセロを始める。今度は先ほどとは違い白熱した戦いになった。


「ふはははは! この角はもらったー!」


「なんの。その隅一列はすべて埋めさせてもらうよ」


 一進一退の攻防が続く。そして……


「お待たせしましたー」


 お約束のように料理が届いた。


「このタイミング、どう思いますアスさん?」


「いやー、さすがにないであろう」


「え、え!? なにかまずかったですか?」


「冗談冗談。ありがとねモール」


 おろおろと困惑するモールに謝りオセロをどかし、料理を受け取る。受け取った皿に乗っているのはこの店一番の人気商品であるハンバーグ。湯気を出す表面からは押さえきれないとばかりに肉汁が溢れてくる。なんと食欲を刺激する光景だろうか。


「いただきます」


 程よい硬さに焼きあがったハンバーグをナイフとフォークで切り分け、口に運ぶ。


 ……やばい、うめぇ。


 味付けは同じながらも、焼き方などの差から明らかに俺の作ったものよりうまい。多少悔しい気がしないでもないが、それはそれ、これはこれ。今は素直に楽しむことにしよう。 


「いかかですかな」


 一心不乱に貪っていると横から穏やかな声が聞こえてきた。


「明らかに俺よりうまいじゃないですか。これなら文句なしですよ」


「それはよかった。長年料理を嗜んできた者として、基本的な調理については若い方に負けてられませんからな」


 少しばかり得意そうな顔をして笑みをこぼすミックさん。


「あのー、結果が出たなら俺も食べていいですか? もう腹ペコで……」


 ただでさえ空腹な上、食欲をそそる匂いにやられたのだろう。了解の意を示すと脱兎のごときスピードで厨房に走っていった。二重の意味でミックさんをさしおいて。





「それじゃあご苦労様でした。明後日からはよろしくお願いしますね」


「お任せください、それでは失礼します」

  

 優雅に一礼して去っていくミックさん。最終リハーサルのつもりだったが、調理、配膳、片付けすべての点で問題なさそうだ。これで安心して任せられる。


「じゃあ二人もお疲れ様。今日はもうやることなくなっちゃったけどどうする?」


「俺はリンゴの世話とかがあるんで失礼します。明日は見送りに来ますからね!」


 そういってモールはぶんぶん手を振りながら出て行った。


「アスはどうするの?」


「我は特にすることがないからな。サイトウの相手をしてやろうではないか」


 無駄に偉そうな態度に突っ込んでやりたいものの、朝の様子を見られている以上手痛いカウンターが飛んでくるのは目に見えている。喉元まで出掛かっている言葉を飲み込みスルーに徹する。


「やれやれ、手のかかる者の監視役になってしまったものだ」


「アスに言われたくないっ」


 我慢を意識していたはずなのに、気がついたら突っ込んでいた。まぁ年下にこんなことを言われてしまっては反射的に言い返してしまうのも無理なからぬことだろう。その後もくだらない言い争いを続けたりして時間を潰した。





 そして次の日。


 アスがやってきてしばらくするとミリアとジルさんがやってきた。


「ちょっと渡したい物もあったからこっちに来ちまったよ」 


 そういうとジルさんは判の押された書類のようなものを渡してくれた。なんだか重要そうな感じはするのだが如何せん字が読めない。これはエバンス商会で働くにあたり本格的に字の勉強をする必要がありそうだ。


「これは?」


「それはジル=エバンスがユウ=サイトウに土地を売り渡したっていう契約書さ。あんたの制約は聞いたけど、どうすれば所有したことになるか分からなかったからね。万が一を考えて作らせてもらったのさ。一応対価のところに勤労としといたから、条件を確認したらサインしといてよ」


 どうしようもないのでアスに渡して読んでもらう。確認後「問題ないぞ」と教えてくれたが、なけなしのプライドがダメージを受ける。うう、尊厳のためにも字の勉強をしなければ……。心の痛みに耐えながらもサインをしてジルさんに渡す。


「はいよ……確かに。ところで気になってたんだけど、アスちゃんも来るのかい?」


「そのつもりなんですけど……まずかったですか?」


「いやあたしとしては問題ないんだけどね……少々嫌な目にあうかもしれないよ?」


「無論覚悟の上だ。気遣い感謝するぞ」


 腕を組み、不敵な笑みで言い放つ。


「くくっ、あんたいい女になるよ。そういうことなら問題ないけど、無駄にトラブル持ち込まないためにも耳と尻尾を隠すものは持ってくんだよ」


「むう、生憎そのようなもの持っておらんぞ」


 そんなときこそ俺の出番でしょう。


 魔法発動――


 広げた手のひらに現れたのは真っ白なベレー帽。どこぞの芸術家が被っていそうなタイプではなく、頭をすっぽりと覆うことができそうな大き目のものだ。


「はぁ~、やっぱり便利な魔法だねぇ」


「アスに選んでもらえればもっと便利なんですけどね」


 以前試したのだがどうやら魔法で現れる画面を見ることができるのは俺だけらしい。食料品や生活用品を出すだけならまるで問題はないのだが、服などを出すときには少々不自由を感じる。


「というわけで、俺のセンスで申し訳ないんだけどこれで我慢してくれないかな?」


 おずおずと帽子を渡すとアスは両手でそれを受け取り訊ねてきた。


「これはサイトウが真剣に選んだのだな?」


「うん、まぁ」


「我に似合うと思ったのだな?」


「う、うん」


「ならよい」


 そういってアスは帽子をきゅっと抱きしめた。そして両端を引っ張るようにして帽子を被ると二カッと笑いかけてきた。


「似合うか?」


「あー、そのつもりで選んだからね」


「はいはい、二人の世界を作るのは結構だけどもうそろそろ出発してもいいかい?」


 横からかかった声ではっと振り向くと生暖かい目をしたミリアとジルさんが立っていた。事実言い訳できない状況だったため気恥ずかしい。アスも帽子を顔まで下ろして赤くなっている。


「もう準備はいいかしら~」


 そういってなぜか扉を開けるミリア。そして扉の向こうには王様、后様、グランさんにミックさんにモールといったこの森でお世話になった人達が勢ぞろいしていた。


 口々に見送りの言葉をくれる人達。俺は「いってきます」といって頭を下げることしかできなかった。ふいに目頭が熱くなってきて瞼を強く閉じる。


「じゃあいくわよ~」


 ミリアは俺の肩に手を置くと魔法を発動した。光る円の中に俺たち四人を入れて光が舞い上がる。


 こうして俺は第二の故郷たる森を離れた。


 ただ「タマの丘」に着いた後、一週間後に帰ってくることを思い出し微妙に恥ずかしくなったのは内緒だ。





ようよう森から抜け出ました。のろのろして申し訳ない。

次話からはサンライズ編に入ります。



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