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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
30/62

心も体も疲れました。

投稿遅れて申し訳ないです。最近かなり忙しくなかなか時間が取れませんでした。ちゃんと生存はしています。こんなんですがよろしくお願いします。

 王様より土地を頂けることになって数日、いつも通り朝の支度をしているとアスがなにやら小さな肩掛けカバンを持ってやってきた。普段なら入ってき次第元気に挨拶するはずなのにそれもなく、得意そうににやけながらゆっくりこちらに歩いてきた。


「いい朝ではないか、サイトウよ」


「? おはよう、いい朝だね」


 なんだか無駄に余裕を溢れさせようとしている様子が気になるがとりあえずはスルーしておく。ちなみに今日は朝から曇り気味だ。


「今日は王から手紙を預かってきたのだ。ありがたく受け取るがよい」


 態度の理由をなんとなく理解。うーん、ここは乗っておこうか。

膝をつき王様に対するような作法をとり「ありがたき幸せ」と返事をする。平伏して「へへーっ」とかジャパニーズな下々を演じようかとも思ったが、その後の反応によっては恥で死にかねないので自重。

そんな俺を見てアスは満足そうに笑うと手紙を渡してくれた。手紙を渡すとさっさと演技をやめ、早く見るように急かしてくる。


「ちょ、受け取った後の口上ぐらい言わせてよ」


「何を言っておるのだ。サイトウの言葉は我をこんなに感動させておるというのに……!」


 こいつ完全に無視する気だ。暴君が、暴君がここにいます。

……まぁそんなことはどうでもいいので早速手紙を開いてみる。なんだかんだ言っても俺も早く見たいのだ。期待して見てみるが当然のごとく文字が読めない。


「ごめん、ちょっと読んでくれない?」


 せかせかと手紙を開けていた身としてはなんとも恥ずかしい話だが我慢。アスのあきれたような視線も我慢。


「なになに……要約すると<ミケの丘>の一部と<森の境>の一部を渡すと言うことが書いてあるな。

よかったではないか! さすが父上だ、わかっておられる!」


「よく分からないんだけどいい土地がもらえたのかな?」


 土地の名前を言われてもいきなりここに来た俺にはまったく分からない。つまり俺は手紙の文字も読めなければ土地の名前も分からないということだ。なんという無能。


「<ミケの丘>はミケという魔物が住んでいる丘だ。サンライズに行くにはどうしても魔物の生息地を経由しなければならないのだが、この丘はその中でもかなり危険の少ないところだ。それにここは見晴らしがよいからいい景色が見えると思うぞ。そして<森の境>はその名の通り森の北端だ」


 どうやらだいぶ気を使ってもらったようだ。制約の関係でうろうろできないので景色のいい土地は喉から手が出るほどほしいものだし、転移の関係からも森の端の土地はありがたい。 


「だいぶいい土地をもらっちゃったね。これはますます失敗できなくなっちゃったよ」


「何を言っておるのだ、我がいる以上失敗などするはずがなかろう。そなたは安心して励めばよいのだ」


 胸を張ってアスが言う。外に出たことがないといっていたから別に根拠のある自信じゃないんだろうけど、ここまではっきり言ってくれると根拠がありそうに聞こえてくるから不思議だ。小心者の俺には真似できない行為だからこそ、こう言ってくれるのすごいありがたい。


「その通りだと思いますよ? じゃあそろそろ開店の準備に戻ろうか」


「……サイトウよ、その反応はどうなのだ?」


 軽く睨まれたけど精神の安定のためにスルー。無駄に忙しそうにして厨房に向かった。





「こんにちは、今日もご馳走になりますよ」


「いらっしゃいませ、何度も来ていただいてありがとうございます」


 昼のピークもひと段落してお客さんが少なくなってきたあたりでミックさんが来てくれた。たびたびこの時間に足を運んでくれるのだ。忙しいときはまるで余裕がないからこうやってきてくれるとありがたい。 

ミックさんはいつも通りカウンターに座りメニューを開く。少し眺めた後、紅茶とスコーンを注文した。これはミックさんのお気に入りメニューでよく頼んでくれるものだ。


「ここの紅茶もスコーンも本当においしくて気に入っているのですよ。紅茶は何とかなるのですがスコーンは教えていただいてもうまくできませんでしてな」


「あー、うまく焼けませんでしたか。まぁこの店で食べていってくださいよ」


 あらかじめ準備してある生地をオーブンに入れ点火する。同時にやるとタイミングがずれてしまうので、時間を見て紅茶のお湯を沸かし始めた。スコーンが焼けてきたら夜の暇な時間に作ったジャムも温める。あまりに暇だったので作ってみたのだがこれが意外においしく、今ではスコーンの定番に成りつつあるのだ。


「お待たせいたしました、紅茶とスコーンです」


「ありがとう、うん、おいしそうだ」


 他のお客さんがいなくなった店内でミックさんはゆっくり紅茶を楽しんでいる。ときおりカウンターの内側に座った俺たちと会話をするだけで基本的に静かな状態だ。相変わらずウサギハンドできれいにスコーンを食べる姿は興味深い。


「ありがとう、相変わらずおいしかったよ」


「お粗末さまです。申し訳ないんですがちょっとお時間よろしいですか?」


「なんですかな?」


 せっかくミックさんが来てくれたのだから引継ぎについてお願いしておきたいと思う。


「今度野暮用でサンライズにある程度の期間行くことになったんですが、店を閉めるのもどうかと思うのでその間誰かに任せられないかと思っているんです。そこでぜひ、ミックさんにお願いしたいと思うのですが引き受けていただけませんか?」


 ミックさんは少し意外そうな顔をし、顎に手を当てて少し考えると質問をしてきた。


「なかなか面白そうな話なのですが条件はどのようなものなのでしょうかな?」


「そうですね、毎日とは言いませんが七日に四日は営業してもらいたいです。材料は様子を見て自分が届補給しにきます。あとこの店は営業時間外であれば自由に使ってもらってかまわないです。給料は相談ということで」


「レシピの改変や追加はどうですかな?」


「まぁミックさんなら大丈夫だと思うんでいいですよ。ただ改変についてはお客さんの反応によっては元に戻してもらうかもしれません」


 それを聞くとミックさんはにんまりと笑いうなずいた。


「分かりました。力及ばずながら手伝わせていただきましょう。給料については常識の範囲内で結構ですが、材料の補給の際に私の個人的な分も代金を払うので補充させていただきたい」


「もちろんです。いつからお任せすることになるかは分かりませんが、どうかよろしくお願いします」


 そういってミックさんに頭を下げる。思ったよりも店の引継ぎが楽に決まってよかった。これのせいで数ヶ月かかることも覚悟していただけにこれは大きい。これも日ごろの善行のおかげですね。


「さぁ、そうと決まればいつ任されてもいいように早く料理を学ばなくてはなりませんな! 早速今から教えていただけますかな?」


 突然の申し出に動きが止まる。前向きに取り組んでくれるのはいいことなんだけど急すぎやしませんか?

アスの方をちらりと見ると厳粛な面持ちで首を振っていた。ああ、こうなったら止まらないんだね。


「そんなに熱心に取り組んでもらえると嬉しいですね。もう店も終わりですので休憩したら早速始めましょうか」




 営業も終わり、片づけを済ませるといつも通り賄いを作り始めた。ミックさんの熱意はかなりのもので、この簡単な賄いにさえ興味を示し事細かに質問してきた。おかげでいつもより時間がかかってしまいアスに怒られないかビクビクしながらテーブルに持っていったのだが、アスは悟ったような顔をしてテーブルに座っていた。何だよ、こうなることが分かってたなら教えてくれたっていいじゃないか。

もそもそと食べ終わると片づけをアスに任せ、待ち切れなさそうにうずうずしているミックさんに料理を教え始めた。


「えっと、まずはステーキに使うソースからですが……(前略)……次はパスタに関してですが……(中略)……もうそろそろ一度休憩した方がいいんじゃないで、そうですか……(後略)…………以上で終わります」


 うう、もうだめだ。俺の亡骸はベットに寝かせて定期的に食料と水を与えてください。というか誰だ、引継ぎが楽に決まってよかったとか言った奴。かなりの苦難だったぞ、謝罪と訂正を要求する。……もういいや、空しい。


 教え終わるとテーブルに倒れこみ燃え尽きた俺とは違い、ミックさんはエネルギー満タンといった様子でいい笑顔をしている。そんな満足そうにしてくれるとこの苦労も多少は報われる。


「なんというか……大変だったな。これでも飲んで元気を出せ」


 アスはそういって冷えたミルクセーキを出してくれた。これは果物からジュースを作ると結構な量がいるというケチ臭い理由から以前作られたものだ。主に子供のお客さんに人気の一品で、それとはまったく因果関係はないのだがアスも大好きだ。

冷たくて甘い感覚が疲れた体に心地よい。ミルクセーキを一息に飲み干すとアスにお礼を言った。


「おいしかったよ、ありがとう。それにしてもミックさんってあんなに料理好きだったんだね」


 そういうとアスは苦笑して答えた。


「ミックは自分の知らない料理に目がないのだ。ただでさえ知らない料理なのに、それが今まで食べたことのないほどおいしいとなればああなってしまうのだろう」


「その通りなのですよ! サイトウさんの料理は魔法でしか出せない材料を使うものも多いですがどれもとてもすばらしいです! いずれは魔法を使わずとも手に入る材料を使って、もっとすばらしい料理を作って見せますよ」


 ミックさんが話を聞いていたのかそう言ってきた。俺も日本にいた頃はおいしい店がないか食べ歩きをするぐらいには美食家だったので、ぜひこの世界にしかないものを使ったおいしい料理を食べてみたいと思う。


「それは楽しみですね、期待してます」


「我は肉を使った料理がよいぞ」


「はい、任せてください」


 ミックさんはそういって優雅に一礼をした。そして頭を上げると胸ポケットから懐中時計のようなものを取り出し中を見た。 


「ではそろそろいい時間ですので失礼させていただきましょうかな。サンライズに行く日が決まりましたらまたフォンで連絡ください。今日はどうもありがとうございました」


「こちらこそ引き受けていただきありがとうございました。また連絡することもあると思うのでよろしくお願いします」


 そう返事をするとミックさんはにこっと笑い家に帰っていった。扉が閉まると、今日のやるべきことが終わった安堵感からどかっと椅子に崩れ落ちる。


「アスゥー、なんとかなったよー」


「よかったではないか。多少の難はあれどもミックなら十分にやってくれると思うぞ」


 そう言ってアスは座っている俺の後ろにまわり、疲れを労うように肩を揉んでくれた。立っていると俺の胸ぐらいの身長しかないアスだが座っていればちょうどいい高さになる。獣人ゆえか力は強いものの、揉んでくれる手はやっぱり小さくなんとなくかわいらしく感じる。長い髪が力を入れるたびに背中にあたり、普段は気づかなかったいい匂いがしてくる。確かになれた手つきで気持ちいのだが、時間が経つにつれなんとなく恥ずかしくなってきた。


「ありがとう、気持ちよかったよ」


「もういいのか? ときどき父上にして差し上げるから下手ではないと思うのだが……」


「いや、すごい気持ちよかったんだけどやってもらうのが悪くてね。今度は俺がやってあげるよ」


 そういってアスを座らせると肩を揉み始める。想像以上に小さくて細い肩に驚きながらも痛くないよう丁寧にマッサージをしていく。


「むっ、く、くすぐったいではないか。わわわっ! もうよい、もうよいから!」


 慌てた様に椅子から立ち上がるとくるりと回ってこちらを向いた。心なしか顔が赤いような気がする。


「わ、我はなれておらぬから別に揉んでくれなくともよいぞ」


 たしかにマッサージってされなれてないとくすぐったくてしょうがないからね。でもせっかく揉んでもらって何もしないのも悪いと思い、テクテクと近づいていって頭を撫でる。いつもは髪に沿って撫でるのだが、今日は気分の関係でわしゃわしゃといった感じで撫でる。アスも始めはびっくりしたような様子だったが、すぐに気持ちよさそうにし始めた。

撫で終わり、軽く乱れた髪のままにこっと笑ってアスは言う。


「やはり我は撫でてもらうほうがいいな。ではそろそろ失礼するとしよう」


「分かった、今日もありがとね」


 俺がそう言い終わらないうちにアスは早足で出て行ってしまった。少し顔が赤かった気がしたから、やっぱり恥ずかしかったのだろうか。まぁいきなり撫でられれば恥ずかしいか。

そんなことを思っていると外で「わっ!」という声と転んだような音がした。そんなに早く帰りたいほど恥ずかしかったのかな? これは反省しなければ。


 珍しく出しっぱなしになっている食器や椅子を片付けていると、ある衝撃的な事実に気がつく。今日の俺って典型的なセクハラ野郎じゃねぇ?

やっちまったやっちまった。セクハラなんて概念はないと思うけど、アスが王様に「サイトウが気持ち悪かった」とかいって王様出陣。死亡フラグ回収なんて事態になりかねん。

えっ、こういう時ってフォンでフォローすればいいの? でもセクハラじゃないっていっても実際やっちゃったんだから完全無意味だよね?

終わった。まさか異世界にきてセクハラが原因で死ぬことになるとは思わなかった。どうせなら勇者っぽくドラゴンと戦ってとかのが何百倍もマシだよ。


 そんな死刑囚の心境で待っていたが王様が突撃してくるような気配はない。……どうやら死刑執行を今日のところは見逃されたようだ。明日弁明して減刑を求めよう。もしかしたら命ばかりは助けてくれるかも知れない。

そんな一縷の望みにかけて弁明文の構成を考えると力尽きてベットに倒れこんだ。


 明日が命日になりませんよーに。







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