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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
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俺って人間万事塞翁が馬の体現だと思う。

 その後も会議は進み、意見を煮詰めていったがもともとの発案と大きく変わることはなかった。

理由としてはこの中に警備を仕事にしている人がいないこと、計画的な人間との交流が初めてで予想もつかないことがあげられる。どのように戦闘に参加してもらうかにしても人間と獣人両者の反応や連携などわからないことが多すぎるのだ。

そのため最終的には、やるにしてもまず試験的に人間を住ませてみて、様子を見てだんだん増やしていくぐらいしかないのではないかということになった。もちろん王と交渉する際にされるであろう質問に対する返答についても考えたが、どちらかというと意見を認めてもらうというより王の話を聞いて徐々に修正していくという方針だ。なんという出たとこ勝負。


あとの問題は王と会う事なのだが、それは思いのほか簡単にいきそうだった。王自身がアスの働いているところに興味があるらしく一度食事をしに来ようとしているらしい。

もちろん食事に来たところで相談を持ちかけるなんて失礼なので、前もってアスに手紙を渡してもらい話し合い兼食事という形にするつもりだ。いきなりフォンで連絡というのも無礼すぎる気がするし。


「はじめまして、王女に手伝っていただき『ベイビーバード』を経営しているサイトウと申します。このたびは――――と、これでいいかな?」


 王様に手紙を出した経験なんてもちろんないので書き方などわかるわけがない。


「いいと思うぞ。そもそもこの森に手紙を出す文化がないゆえこれといった形式がないのだ。それに手紙の形式が違うから無礼だなどという父上でもないからな」


「じゃあこれで終わりですね。さっそく飯にしましょうよ! 俺もう腹が減って腹が減って」


「ごめんごめん、じゃあ皆様本日はありがとうございました。ささやかながらも夕食を用意しましたのでよければ食べていってください」


 そういって帰る人はおらずみんなで夕食を食べることになった。

会議で使ったものの片付けや食事の準備をアスとモールにしてもらい、自分は厨房で料理の準備をはじめた。大きめのなべでぐつぐつとシチューを煮込み、六枚の皿にお湯を張り、六人分のパンを用意する。ほかの料理に取りかかったときせっせと準備する自分を思い、少し笑った。

日本にいた頃の俺は、友達は少なくはなかったが多くもなかった。まさか自分のために動いてくれる人がこんなにできて、その人たちのために嬉々として料理を準備するなんて思いもしなかったなぁ。


「二人とも、料理できたからこれ運んでー」




 料理がテーブルに並ぶと、みんなそろっていただきます。

アス、二杯目を食べるのは全然かまわないんだけど鶏肉ばかりピンポイントで狙うのはどうかと思う。

モール、なんでそんなに急いで食べてるの? え、大人数で食べるときは家を思い出してこうなっちゃうって? ……よくわからないけどゆっくり食べな。

ミリア、もしかしてと思って作っておいた稲荷ずしだけどそんなに喜んでくれてよかったよ。ただ作っといてなんだけどシチューに合わなくない? 

グランさん、申し訳ないんですけど酒はないです。今度持ってきてくださいよ、一緒に飲みません?

ジルさん、シチューについてそんなに聞かれてもわざわざジルさんが商品化するようなものでもないと思いますよ。職業病ってやつですかねぇ。

みんなで笑い、さわぎ時間が過ぎていく。

 その日みんなで食べた夕食は、普段アスたちが帰った後に一人で食べている夕食よりもずっと、ずっとおいしかった。









「父上からの手紙を預かってきたぞ!」


「おはよう。助かるよ」


 ドアが壊れるんじゃないかという勢いでアスが飛び込んできた。あいさつもそこそこに読め読めと急かしてくるので、掃除を中断して手紙を開く。中には無骨な文字で――読めない。


「ごめん、読んでくれない?」


「仕方のない奴だ。読んでやるからありがたく思うがよい」


 得意そうに手紙を受け取るとゴホンとせき一つ、やけに仰々しく読み始めた。

だいたいの内容としては、明日の夜に妻と行くので食事をお願いしたいということ、娘が普段働いている場所を見たいのでなるべく普段通りにしてほしいということが書いてあった。


「そっか、じゃあ料理を用意しておかないとね。王様たちってなにか好きなものある?」


「普通に肉を食べているぐらいだが……あまり特別なものを用意しなくてもよいと思うぞ。普段をみたいと書いてあったのだから普通の料理でいいはずだ」


 そんなものだろうか? 日本でも偉い人を家に迎えるなんてことなかったからどんなものかよく知らないけど、王女さまが言うならそういうものだろう。


「了解。あと文化の違いもあるだろうから、営業が終わった後に最低限の礼儀だけでも教えてもらいたいんだけど……」


「それについては任せておけ。なに、最低限とは言わずできる限り教えてやろうではないか」


 目の輝きがそぞろ不安を感じさせるんですが……お手柔らかに。





「なんだその立ち方は! 背筋を伸ばすのだ背筋を!」


「いえっさー」


予想以上にアスは教育熱心でした。ハハッ。敬礼もしましょうか?


「なんだその返事は?」


「故郷の言葉で俺も詳しくは知らないんだけど、『わかりました』みたいな意味かな?」


「そうか、ならよい。では続きだ。

後頭部に紐を付けて軽く吊り上げたような気持ちで! 立ち姿の中に優雅さを、気高さを感じさせるのだー!」


 ちょ、ハードル高いって。立ち姿でそんなもん表現できるの? 

それにねー優雅さとか気高さなんて俺の成分表一番下まで見てもないからねー。感じさせるものがない以上無理だよー。とはいえ


「返事はどうしたのだー!」


「いえっさー」


 というわけしかないのですよ。





「うむ! これだけできればいつ父上や母上に会っても問題ないな!」


 アスのありがたい講義も終わりお茶をすすり始めた。終わった直後なんて優雅さについて哲学的に考察し始めるぐらい混乱していたけど今は何とか落ち着いた。


「とりあえずありがとね。じゃあ明日は普通に営業した後、夕食のときに迎えることになるからよろしく頼むよ」


「うむ、『いえっさー』だ」


 なにこのかわいい生き物。初めてあったとき、ゆくゆくはこの家に住んでもらう予定を立ててたけど本格的に考えるか? いやしかし倫理、外聞、尊厳など各方面の問題が……。


「つ、使い方が違ったか?」


「いやいやいや、本場では駄目かも知れないけど確実に正しい使い方だよ。俺なんかよりよっぽど」


「……よくわからんが今の返事で問題ないんだな?」


「確実に。問題どころかむしろ推奨するよ」


 久しぶりに暴走した気がする。でも後悔はしていない。



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