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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
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幕間:彼ら(ソース)のその後

 ――早く家に着かぬものか。


 サイトウと一緒に作ったソース。最後にほとんど一人で作らせてもらったこれは味見もしっかりし、うまくできたと自信を持って言えるものだ。――これならば喜んでもらえるに違いない。

いつもはなんともない道が、今日はやけに長く感じて、半ば小走りのようなスピードになってしまうのも仕方のないことであろう。


「ただいま帰りました!」


「ああ、お帰りアスフェル」


「アス、お帰りなさい」


 何をせずとも威厳あふれる豊かな黒髪の父上、優しく聡明な美しい黒髪の母上。二人とも我の自慢の両親だ。おじい様とおばあ様もいらっしゃるが少し離れたところに住んでおる。またお会いしにいかねばな。


「今日の夕食はなんですか?」


「ふふふ、お腹が空いてるの? 今日は夕食はビックベアーよ」


「今日狩ってきたなかなかの大物だ、しっかり食べてくれよ」


「はい!」


 父上は王として討伐隊を指揮し『魔物』を討伐している。『魔物』とは我らのように『獣人』に属するものではなく、ただの動物がこの森で魔力を受け変化してしまったものを指す。魔物は例外なく凶暴であり強大だ。そのままにしておいてはどんな被害を及ぼすやもしれんから、この森で最も強いものが王となり被害がでる前に討伐するのだ。なんと気高き使命であろう、我も立派に引き継いで見せる!


「ところでそれは何を持ってるの?」


 母上が不思議そうに尋ねてくるなどいつ以来であろうか。


「これはサイトウというものが作っている、肉にかけ味付けをするためのソースというものです。これはほとんど私が作りました! ぜひ食べてみてください!」


「それは楽しみね、食べさせてもらうわ」 


「お前が料理をなぁ。よし、しっかり食わせてもらうぞ」


 こんなに嬉しそうにしてもらえるとは。しかし……少々不安だな。

口に合わぬことはないであろうか?





「じゃあ食わせてもらうぞ」


「私もいただくわね」


 二人が焼けた肉の上に、ソースをかけて、ナイフで切って、フォークで刺して、口の中に――入った。だ、大丈夫であろうか? やはりまだ我には早かったのでは――


「うまい! うまいぞアス!」


「本当においしいわ!」


「ほ、本当ですか?」


 大丈夫だったのか……? 気に入ってもらえたのか……?


「こんなことで嘘を言ってどうする。ほんとにうまいぞ?」


「そうよ。明日から食事の準備を変わってもらおうかしら?」


 いつの間にか止まっていた息をはく……よかった。

なんだか胸の奥がじんわりする様な不思議な感じだ、だが――ひどく心地よい。


「お前も食ったらどうだ? まだ手もつけてないじゃないか」


「は、はい。今食べようと思っていたところです」


 ……見るのに夢中で食べることを忘れておったわ。


「それにしてもアスが何度も話していたサイトウという奴、なかなかやるじゃないか」


「そうね。料理の腕もそうだけどアスに気に入られているのもたいしたものだと思うわ」


「ちょ、ちょっと待ってください。私は何度も話していませんし、気に入ったわけでもありません!」


「ここ最近毎日聞いてた気がするのは気のせいだったか?」


「朝支度の時間が長くなったのも気のせいだったかしら?」


「わー! わー!」


 うう、サイトウめ、おぬしのせいだ。明日行ったら蹴らしてもらうぞ。これは正当な権利だ!

















「ただいまー、今日の飯なにー?」


「なんだい帰ってくるなり。今日はホーンラビットだよ。さっさと皿だしときな」


 仕事から帰ってきたところなのに……。かあさんも俺じゃなくて、あそこで暇そうにしてる兄さんたちに頼めばいいじゃないか。


「兄さんも姉さんも手伝ってくれよー」


「よし、指示は任せろ」


「監督は任せなさい」


 いつもどおり、使えないか……。何でうちの家族はこんなに理不尽なの?


「あんたたちもさっさと手伝いなさい!」


「何を言っているんですかお母様? もう机は拭いておきましたよ」


「そうですわお母様。食器の準備も済ませましたし何もしていないのはモールだけですわ」


 こいつら……いつの間に!? そんな「お母様の言うことは聞かないとだめだろ?」みたいな目で見るのは止めろてよ。 「まだまだ甘いな」って空気が隠せてないよ!?


「寛容な兄はそんな弟も許してやろう……。かあさん、そろそろ食おうぜー」


「かあさん、私もおなか空いたわー」


「はいはい、いま持っていくから待ちなさい」


「納得いかないー!」





「じゃあ食べようと思うんだが……モール、いま肉にかけてるそれなんだ?」


「これは『ベイビーバード』で売る予定のソースって言うんだ」


 知らないでしょ、これほんとおいしいんだ。まぁ優しい弟としては分けてあげてもいいけどね?


「たしかそこってお前が働きに行ってる飯屋だったよな。

ふーん、かければいいんだな。ちょっともらうぜ」


「あ、私もー」


「私ももらおうかね」


 ふふん、せいぜい驚くがいいよ。モール様を敬うのだー。


「うまっ! なんだこれ!」


「おいしー!」


「ほんとにおいしいねぇ!」


 どうだどうだ。って……あれ? ちょっとかけすぎじゃない?

無くなる、無くなるって!


 あー。





「いや、ほんとうまかった。今回ばかりはお前の勝ちだな」


「そうね、悔しいけど異論はないわ」


「…………」


 なんなの? この試合に勝って勝負に負けた感覚は。


「耐えなさい、お前はよくやったよ」


 と、父さん。肩に置いてくれた手があったかいよ。

常識人は父さんだけだよ……。

でも父さんも、もう少し影を濃くしたほうがいいと思うんだ。

……いたの気づかなかったもん。



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