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むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
24/62

先生に教えていただきました。

 グランさんに魔法をかけてもらってからもう一週間だ。

リンゴは恐ろしいぐらいに成長し、すでに花をつけている。

当初は見るたびに成長していくリンゴに、「もうちょっと自重してもいいんじゃない?」と突っ込んでいたが今はもう慣れた。……慣れって怖い。


「二人ともお疲れ様、賄いできてるからどうぞー」


「うむ、いただくぞ」


「待ってましたー! いただきます!」


 モールには5日ほど前から手伝ってもらっている。農場の仕事もあるし悪いと言ったのだが、本人の熱烈な希望に負けて厨房に入ってもらった。

「歓迎するぞ」といったアスの口が微妙に引きつっていたのが気になったが、なにも起きていないので問題ないだろう。


「それにしてもほんとうまいですね! こんなの食べさせてもらえるなんて俺、幸せだー」


 皿に残ったソースも舐めとらんばかりの勢いで完食してしまった。別に料理の修業をしていたわけでない俺としては、ここまで褒められると苦笑してしまう。


「ありがとう。それにしてもこの森の人って普段何を食べてるの?」


「そうですね、狩りで獲った肉を食べたり、適当に木の実食べたりぐらいですね。肉にしたってせいぜい焼くぐらいで料理なんてさっぱりですよ」


「我ら王族はもう少し手を加えるが、サイトウと比べるべくもないな。料理をしているといえるのはミックぐらいのものではないか?」


「ミックじいさんが何かしてるのは知ってたんですけどねー。ここまでうまくなるんだったら自分も教わっとけばよかったですよ」


「じゃあみんな肉を焼くぐらいのことはするんだ」


「我は食べること専門だがな!」


 おい、と思わず突っ込む。


「料理が食べたくなればおぬしが作ってくれるであろう?」


 作ってくれないとは微塵も思っていない様子で言ってくる。

まあ頼まれれば作りますけどね?


「はいはい、王女様の仰せのままに」 


「ここまで敬意が感じられん『王女様』も珍しいな……」


 呆れ顔のアスは滑らかにスルー。コンナニウヤマッテルノニネー。


「それは置いといて皆さん肉を焼いたりするんだったら、ステーキ用のソースとか売れるかな?」


 客観的に見て俺は明らかに料理人と言えるレベルではない。そんな俺の店になぜ人が来てくれるのか? その原因はおそらく味付けにあるのではないかと思う。

焼いただけの肉を食べていた人が、調味料などをしっかり使った肉を食べる。それならばそれなりのレベルでも多くの人が気に入ってくれるだろう。

その味付けをするソースならば売れるはずだ。


「絶対売れますよ! 売ってたら俺買い込みますよ!」


「それはいいな! あればぜひ買わせてもらうぞ」


 身を乗り出すモールにピンと耳が立つアス。

想像以上の好反応に口元が緩む。これは思った以上に名案だったのかもしれない。

ソースとして一手間かければ、材料をそのまま売るのと違い利益が出る値段でも売れるはずだ。いいね、やる気出てきた。


「じゃあ今から早速、明日売れるようにソース作ってみるよ。よければ手伝ってくれない?」


 間髪いれずに二つの「もちろん!」という声。なんとも嬉しいじゃありませんか。









「明日は試し売りだしこんなものかな?」


 いろいろ手間取って時間がかかったとはいえ、やっぱり手伝ってもらうと楽だなー。

前に並ぶのはソースの入った空き缶ぐらいの大きさの樽30個。日本みたいにプラスチックの容器でもあればよかったんだけど残念ながらなかった。

聞けばこの森にはそこまでフリーズボックスが普及しているわけではないらしい。ソースが悪くなってはいけないので小さめの容器にして、多めに買うお客さんにはしっかり説明するつもりだ。……こまめに店に来てくれるといいな、なんて思ってませんよ?


 材料費を計算して店で見たことあるような値段にしたら、原価率5割以下になった。心配になって聞いてみたが問題なく売れるだろうとお墨付きをいただいた。全部売れた場面を想像してみる。笑いが止まりませんなぁ。


「二人ともありがとう。これはお礼、また使ってみて感想教えてくれると嬉しいな」


 二人ともに出来立てのソースを一つづつ渡す。もっと渡したい気分だけど痛むといけないのでこれぐらいで。

 

「料理っておもしろいんですね! これ早速今日の夜にでも使わせてもらいます」


「うむ、父上や母上に食べてもらうのが楽しみだ」


「じゃあ今日はお疲れ様。気をつけて帰ってね」


 二人は嬉しそうに笑うとソースを大事そうに抱え、小走りで自分たちの家に帰っていった。












「おはよう、今日もよろしくね」


 いつもより早めでもうちの従業員さんは元気です。


「うむ、こちらこそな」


「昨日のソースはもう使ってくれた?」


「使ったぞ! それでな、それでな、父上も母上も家族みんながおいしいと言ってくれたのだ!」


 目をきらきらさせて体全体で喜びを表現するアスは心の底から嬉しそうだ。自分が作ったものをおいしいと言って食べてもらえることは他にはない、独特の喜びがある。――うれしいんだよなぁ。


「あ……おはようございます。今日もよろしくお願いします」


 モール、なんかいつもよりテンション低い? いつもなら「おはようございます!」ってどこぞの野球部張りに大きな声で入ってくるのに。


「おはよう、なんか元気ないね?」


「あ、はい。ちょっと悲しいことがありまして……そのうち元気になりますんで気にしないでください」


「そう? 無理はしなくていいからね。あとアスには評判だったんだけど、昨日のソースどうだった?」


「おいしかったですよ……おいしかったです。俺、リンゴ見てきますね」


 明らかにテンションが低い。どうもソースが関係しているような気がするけど、昨日一緒に作った俺のもアスのもいい出来だったから問題ないと思うんだけど。よく分からんけど昼の賄いは大盛りにしてあげようかな?





「すいません、持ち帰りに三つください」


「二つよろしく」


 売れ行きだけ見ればソースの販売は大成功だった。会計を済ませるときにほとんどの人が買っていってくれ、今後の販売が決定したのは間違いない。

しかし大きな失敗があった。――ソースの数だ。昨日の二人の反応から判断してもう少し準備しておくべきだった。ほとんどのお客さんが2、3本づつ買っていってくれるからピークの序盤にはもうなくなってしまった。買えなかったお客さんには謝罪しておいたが、残念そうな顔を見るたび申し訳ない気持ちでいっぱいになった。





「ものは成功だったが失敗したな」


 三人で食事兼ミーティングをしているとアスがそう口火を切った。


「そうだね。大体で作っちゃったけど、もっとお客さんの数とかを考えて作るべきだった」


「我も少し想像すれば分かったはずだ。この森に来たばかりのサイトウでは分からなくとも無理はない。我の失態だ」


 食器の音も止まり食卓に重苦しい沈黙が流れる。


「お、王女様もサイトウさんもそんなに落ち込まないでくださいよ。確かに今日は失敗だったかも知れないけど明日からがんばればいいじゃないですか!」


 暗くなってしまった雰囲気を明るくしようとがんばってくれているのがよく分かる。

両手を振ったり体を動かしたり明るい声を出してくれたり――。

あんまり必死に励ましてくれるから、落ち込む気もなくなってしまった。


「まったくその通りだ。反省はしても後悔はするべきじゃないね。くよくよしたって何も変わらないもんな」


「うむ、我らが落ち込んだところで客にとっていいことなど何もないものな。モールよ、感謝するぞ」


 二人で示し合わせたかのようにおかずをモールの皿に移す。「え、いいんですか?」という視線に笑みで答える。――いいからもらっといて。


「さて、モール先生に怒られちゃったし食べ終わったら十分なソース作りと新作の開発がんばりますか」


「モール先生に怒られたくないものな。がんばろうではないか」


「ちょ、二人とも俺怒ってないですよー!」


 さてさてこれから大忙しだ。

『ベイビーバード』総力を挙げてお客様のため、がんばらせていただきます。





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