表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むりやり自宅警備員  作者: 白かぼちゃ
おいでませ、ベイビーバード
21/62

持つべきものは仲間です。

「うまかったよ。ごちそうさん」


「ありがとうございました。また来てくださいね」


「うむ、また来るがよい」




 怒涛のセール三日間も何とか終わり思わず大きく息を吐く。

前日二日間の評判がよかったのか、今日はセール中最多のお客さんが来てくれてアスともども目の回るような忙しさだった。それでもほとんどのお客さんが満足そうに出て行ってくれていたのを思い出すと思わず笑みがこぼれてくる。


「そのテーブルを片付け終わったら賄いできてるから食べてねー」


「待っておったぞ! 今日はいったい何という料理なのだ?」


「親子丼って料理なんだ。熱いうちにどうぞ」


 はじめはわしづかみだった箸も今ではそれなりに使えるようになってきたみたいだ。驚くべきは食への執念ということか……。

しばらくして二人とも食べ終わると、横日の差し込む店内でお茶をすする。


「とりあえずお疲れ様。この三日間働いてみてどうだった?」


「うむ、なかなか興味深かったぞ。王族の仕事と違いこのようなのんびりした仕事も悪くないな」


「そういえば王族の仕事って何やってるの?」


「主に治安維持だな。毎月みなから税を集めてそれを使い、治安維持部隊を整え自ら戦ったりもする。我はそれとは別に困ったものがいるようなら助けるようにしておるがな」


 得意そうに腕を組む姿はどこか誇らしげに見える。俺がアスぐらいの年だった頃と比べると

軽く苦笑してしまう。


「まぁ王族の仕事はよいのだがこの仕事で気になったことがあってな。もう少し仕込みを増やしたほうがいいのではないか?」


 そう、それが問題なのだ。開店してわかったのだが、この森には圧倒的に肉食の人が多い。そのためハンバーグにいたっては仕込みが足らず数量限定になってしまっている。商売人としてそれはどうなのよと思い冷蔵庫を出そうとしたのだが出せなかった。他にも電子レンジや炊飯ジャーが出せないことを考えると、どうやら電化製品は出すことができないみたいだ。ちっ、使えねぇ。


「それは俺も思うんだけど保存がなぁ。何か冷やして保存しておけるものがあればいいんだけど……」


 そんなことを言うと不思議なものでも見るかのような目でアスが首を傾げてしまった。……なにかまずいこと言っちゃった?


「それは『フリーズボックス』を使ってはだめなのか?」


 『フリーズボックス』、名前から察するに冷蔵庫のようなものなのだろう。いやそうに決まっている。どうする、なんて返せばいい。ひらめけマイブレイン。


「この森の中にもあるんだ。てっきりないものだと思ってたよ」 


「ああ、そういうことか。確かにこの森の中に作れるものはおらんがサンライズにはいるようだから、ジルとミリアに頼めばすぐにでも持ってきてくれると思うぞ」


 何とかごまかせたかな? ビバ単純な名前。思わず額の汗を拭うふりでもしたくなるが自重しておく。


「ちなみにここで買うと相場はどれぐらいなの?」


「この店で使うようなものなら(30,000)もあれば大丈夫なはずだ。ミリアに届けてもらうから実際にはもう少しかかるがな。そうと決まれば善は急げだ。さっそく連絡してみるぞ」


 言うが早いか止める間もなくフォンを使い連絡している。

俺って買うとき本当にいるかなって悩んじゃってタイミング逃がす人だから、さくっと決められるアスはすごいと思う。


「ミリアか? アスだが今大丈夫か?」


『王女様じゃないの~。平気だけどどうしたの?』


「それがなベイビーバードで使うフリーズボックスが欲しいのだ。大きさは一般用の1.5倍ぐらいで、なるべく早くがよいのだがいつぐらいなら大丈夫だ?」


『ジルちゃんしだいだけど急いでるなら明日の朝には間に合うと思うわ。予算はどれぐらいなの?』


「(30,000)までなら出せると伝えておいてくれ」


『わかったわ。じゃあまた明日ね』





「サイトウよ、何とかなりそうだぞ……ってどうしたのだ?」


 頭からきのこでも生えてきそうなぐらいどんよりした気分です。

あれ、俺っていらない子ですか? 明日から王女様の食堂開店しまーす。おめでとうございマース。


「いや、たいしたことじゃないよ。生きとし生けるものの存在理由についての考察を深めていただけだよ? ……話は変わって優秀なアスの意見を伺いたいんだけど、食材をそのまま販売してみてどう思った?」


「それについてはあまり調子がいいとはいえないな……」


 実は当初の予想と違い食材をそのまま販売する試みについては利益があまり伸びていない。ネックとなるのはやはり魔法でのコストだ。

先日推測したように魔法にかかるコストは『多くの人が妥当と思える価格』で間違いなさそうだ。しかしその性質上、かかるコストがすでに販売するのに妥当な値段であり、それに利益を含めた値段ではなかなか買ってもらえない。一応最高級品ということで(800)で生み出せるリンゴを(900)で販売してはいるが、ものすごく気に入ってくれたお客さん以外買ってもらえないのが現状だ。

けっ、ほんと使えねーなこの魔法。


「やっぱりこのままじゃだめだよなぁ。またそれについては考えておかないとね……。

そういえばお客さんが特に気に入ってくれたような果物や野菜ってあった?」


「おおむね気に入っているとは思うぞ。まぁその中でも馴染み深いリンゴが一番好まれているようだがな」


「じゃあとりあえず農場計画ではリンゴの栽培を始めればいいのかな。俺はここから出られないから、できれば森の人にやってもらいたいんだけど誰かやってくれそうな人知らない?」


 本来は自分でやるべきなのだろうが俺がやっても柵の中でしか育てられない上、これから栽培方法を広めていくという面でも森の人にやってもらえたほうが断然メリットが大きいのだ。給料は出すから誰かやってくれないかなー。


「そういうことならグランのところに頼んではどうだ? この森には新しく入ってくるものなどそうおらんから巣穴作りの仕事もそこまで忙しいものではないだろう。何より土いじりということにかけてあやつら以上に適任なものもそうおるまい」


「たしかに土いじりにかけてはこれ以上ない人選だね。じゃあ早速連絡してみるよ」





「もしもし、グランさんですか」


『おう、サイトウか? お前なかなか料理うめえじゃねえか。また食いにいくからな』


「ありがとうございます。それで今日は頼みたいことがあるんですがお時間ありますか?」


『今狩りの最中だからもうすこししたらいくから待ってな』


「じゃあお願いしますね」





「というわけでもうしばらくしたらグランさんが来てくれる事になったから、それまでまっててもらっていいかな?」


「うむ、我もこの店の一員だ。ぜひ残らせてもらうぞ」


 どうですか。けっして俺はいらない子じゃないのですよ。ベイビーバード明日もやってますのでよろしくお願いします。









「おう、じゃまするぜ」


「こんにち……は」 


 そこに立っていたのは夕日をバックに獲物を木にくくりつけたものを担いでいるグランさんだった。どうやって狩ったのだろう、その獲物は5mはあろうかという熊のような怪物で不自然なまでに発達した両腕はかすっただけでも意識を刈り取られそうだ。俺だったらマシンガン持ってても逃走しますよ。


「おっと、この熊はでか過ぎて入らねえな。入り口に置かせてもらうぜ。

ところで今日は何の用だったんだ?」


 酸欠の金魚みたいにパクパクしていたけど、グランさんが椅子に座るころには何とか正常な思考に戻ることができた。となりでアスは「大物ではないか」って笑ってるしこの森の人はみんな規格外なの?


「えっとですね、今日はお仕事を頼みたいなと思ったんです。今店で出しているリンゴをこの森に広められたらいいなと思って栽培しようかと考えてるんですけど、自分はこの通りここから出られないんで、グランさんたちにお願いできないかと思いまして」


「なるほどな。仕事をもらえるなら嬉しい話だが、土いじりは別として作物なんか育てたことねえぞ?」


「その点はこちらがだいたい指示しますので大丈夫だと思います。どうですかね、種はこちら負担で給料として収穫の5割を払いますので受けていただけませんか?」


 はじめての農業で給料はその5割。正直条件としていいかどうか分からないができればこれぐらいで受けてもらいたい。じっと見つめていたが意外にもすぐに返事をくれた。


「それならお安い御用だ。俺たちに任せてくれ! 久しぶりに俺の魔法も活躍できそうだな!」


「グランさんも魔法が使えるんですか。いったいどんな魔法なんですか?」


「我もしらんぞ。教えてくれないか?」


 期待のまなざしで見るのだがどうもお茶を濁すばかりだ。


「いや、な? また今度見せるから今はいいじゃねえか。

それよりこの店の周りに50本ぐらい植えようかと思うんだが、種はいつまでに用意できる?」


「店で出したリンゴの種を取ってあるんで今からでもお渡しできますよ」


「そうか、今日は遅いしまた明日の昼過ぎに来るからそのとき頼むぜ。じゃあ今日は帰るが……ちょっと待ってろ」


 そういって外に出て行くとしばらくしてどこぞの妖精が傘にしてそうな大きさの葉っぱに何かを包んで持ってきてくれた。


「これは『ビックベアー』の腕の肉だ。なかなかうめえから一度食ってみてくれよ」


「ありがとうございます。またこれで料理を作れるようになっておきますね」


「おう、俺はこいつの肉が好きでな。楽しみにしてるぜ。じゃあまた明日来るぜ」


「では我も帰るとするか。ではまた明日な」


「じゃあね二人とも、また明日」


 そう言って自分より明らかに大きな熊を担いだモグラと、スキップでもし始めそうな軽い足取りの女の子が森に入って見えなくなるまで見送っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ