昇ってから落ちるとより痛いですよね。
今回は切りが悪かったのでいつもより長めです。
「ただいま~。二人ともお待たせ~」
「ミリア、いったいなんなんだい!?
いい加減説明しなよ!」
ミリアさんが帰ってきました。
いったいどこの人をテイクアウトしてきたのでしょう。
まったく合意の上連れてきたように見えません
拉致でないことをただただ祈ります。
「ミリアさん、おかえりなさい。
そちらの方は?」
「この子ジルちゃんって言うの。
この森の北にあるサンライズって自由都市で商人をしてるのよ~。
来てほしいって言ったらすぐ来てくれたわ~」
……オールオッケー。問題ありません。
「はじめましてジルさん、サイトウ=ユウといいます。
どうぞ、粗茶ですが」
とりあえず四人掛けのテーブルについてもらい定型文を言っておく。
「あ、ああ。ありがとよ。
あたしはジル=エバンスって言うんだ。
よろしくね」
どうやら彼女は人間みたいだ。
スタイルがよく身長は高めで赤い髪を後ろでまとめている。
まさに男勝りという第一印象を受ける女性だ。
ここで言っておきたいことがある。
脊髄反射をいうものをご存じだろうか。
脳にたどり着く前に脊髄が反応してしまうというあれである。
つまり何が言いたいかというと服をしっかり押し上げている部分を凝視してしまったからといって、それは脳とかかわりがないことであって俺に罪はないということだ。
目から脳までにいくのに脊髄通らないなんて野暮なことはいいっこなしさ。
アス、分かってくれるかい?
みんながテーブルについて一心地つくとミリアさんが話し始めた。
「ジルちゃん、今日はこのユウくんに商売についていろいろ教えてあげてほしいのよ。
ちゃんとお礼はするわ」
あれ、なんかジルさんの目つきが変わったぞ。
近所のおねえさんからキャリアウーマンって感じに。
「なんだいミリア、それならそうと始めからいやいいのに。
改めましてエバンス商会副代表、ジル=エバンスと申します。
本日はエバンス商会をご利用いただき誠にありがとうございます」
「ええと……、こちらこそよろしくお願いします」
「ミリア、あちらの方は?」
「アスフェルちゃんって言うの。
この森の王女様よ」
「そうでしたか、失礼しました。
『偉大なる森に永久の繁栄が訪れんことを』」
そう言って流れるような動作で片膝をつき左胸に手を当てる。
「よいよい、そこまでするのは王宮での儀式のときだけで十分だ。
それに我は堅苦しいのが苦手でな。入って来たときのような話し方でよいぞ」
ジルさんはじっとアスの見つめた後俺の方を向いた。
俺もかまわないので頷いておく。
「わかったよ。お客様の要望を聞くのが商人だからね」
「うむ。それにしても人の身でありながらその作法を知っておるとはな」
「商人にとって礼儀は言葉と同じぐらい重要なものだからね。
大抵のものはできるようにしてあるのさ」
「ふふふ~、私のなじみの商人なのよ。
すごいでしょ~」
……この人ってかなり優秀なんじゃないの?
そんな人にコンサルティング頼むの?
費用によってはリアル死活問題になるんじゃないの?
「あたしのことはそれぐらいでいいさ。
それにしても依頼人さん、黒髪黒目とは珍しいね。
名乗り方からして東方の生まれかと思ってたけど、もしかしてあんたもこの森の王族かい?」
「そんな高貴な存在じゃないただの人間ですよ。
東方の出身なのはあってますけど髪と目はたまたまです」
「そうかい? まあいいさ。
じゃあお仕事の話でもしようかね。
とりあえず本題に入る前に聞いておきたいことがあるんだけど、どうして人間のあんたがこの森の中で商売をしようと思うんだい?」
「まぁいろいろあって自宅から出ることができなくなってしまったんですよ。
でも食べてかなきゃいけないので商売を始めようかと思ったんです」
「何だいそりゃ? 何かに呪われでもしたのかい」
その反応は正しい。
誰もこれが神様の祝福の副作用だとは思うまい。
本人でさえも呪われた副作用で魔法が使えるようになったんじゃないかと思っているのだから。
「そういう事情なら仕方ないか。
それならぜひとも物品のご用命はエバンス商会へ」
冗談めかしてニヤッと笑い大げさに頭を下げてくれた。
いちいち仕草が絵になるなぁ。俺が同じことをしたらピエロ確定だというのに。
「また機会があったらお願いしますね。
それで本題なんですが、ここで飲食店を開こうと思ってるんです。
何か助言を頂けたらと」
「飲食店か……。
ちなみにあんた料理はどのぐらいできるんだい?」
「一人暮らしが問題ない程度ですね。
特別得意なわけじゃないんですが、この森で需要がありそう且つ自宅でできそうなことがそれぐらいしか思いつかなかったんです」
「需要から考えるとはやるじゃないか。ただ飲食店にするなら材料はどうするんだい?
ここは結構森の奥みたいだから、外から輸送しようと思うとコストがかかりすぎる。
ミリアに運んでもらうにしても仕事でこの森にいないときはできない。
かといって森でとれるものだけじゃあ料理の種類が限られる。
八方ふさがりじゃないか」
「僕の魔法が『食料や生活用品を生み出せる』なのでその点は問題ないです。
まぁ<キー>がお金なんで万能ってわけじゃないんですけどね」
「なんだいそれは!?
魔法が使えるだけでも驚きなのに最上位の創造系かい!?
食料や生活用品の定義は?
かかる<キー>の量と使う魔力は?
出せるものの質は?」
なんだか急にテンション上げられましたよ。
ミリアさんの話から魔法って強弱こそあれ、みんなが使えると思ってたけど違うんだ。
「食料は基本的に材料として売ってるものだと思います。加工品は出せません。生活用品はよくわからないので、魔法を調べてみてあったら出せるってぐらいの認識ですね。
コスト関係は、出したいものを普通に買うぐらいの<キー>が必要です
質については使う魔力の量次第ですね。出したものは基本新鮮だと思います」
「呆れた。
魂も寿命も使わずに多種類のものを出せるなんて。
商売のためにあるような魔法だよ」
「必要なものがすぐ出せるなんて何でも屋のためにあるような魔法だわね~」
「さすがはサイトウだ。いつでも兵糧が補給できるとは軍務や長期の任務のためにあるような魔法ではないか」
みんなの評価が高いです。
でもデメリットのせいで微妙な気分。
「それなら問題ないね。
この森でとれないものを調理して出せば問題ないとおもうよ。
あとは……原価の計算とかはできるのかい?」
「基本的なものは全部できると思います」
そろばん通ってましたから。ちなみに簿記も多少できますぜ。
だからそんな鋭い目で見ないでください。
「……自分なりにはどんなふうに経営するつもりだったんだい?」
「開店の前にまずは下調べをしようと思っていました。
恥ずかしながらここの方たちの食生活が全く分からないので、ミリアさんと相談しないとメニューも決められないんですよね。
ライバル店もないみたいなので差別化なんて考えず、いろいろな価格の料理を適当に出そうかと。後は開店時の宣伝と値引き、季節ごとの企画を作るぐらいしか考えてませんね」
まぁ本もなくベットの中で考えたんだからこの程度しか思いつかんですよ。
だからそんな鋭い目で見ないでくださいってば。
「こいつは……!
なあミリア、サイトウの呪いは具体的にはどんなものなんだい?」
「『自らの所有する空間の中から出られない』ね。
私の魔法で調べたから間違いないわ」
ジルさんが急に考え込んでしまった。
そのデメリットが解けたら最高なんですけどね。
「ミリアさんもやっぱり魔法が使えたんですね。
いつも急にいなくなるのも魔法なんですか?」
「ジルちゃん連れて来たんだから報酬お願いね~」
「そうですね。……ミリア、そうなの?」
「ふふふ~。空間転移っていって、連続で使えないし運べるものや距離に制限はあるけど瞬間移動ができるの。
あと呪いが分かったのは詳細分析っていって私に敵意をもっていない人の魔法や呪いが詳しく分かるのよ」
ああ、やっぱりこのデメリットって呪いで認識されてるんだ。異議なし。
「使い勝手よさそうだなぁ。やっぱり魔法を二種類使える人って珍しいんだよね?」
「当たり前だ。父上とミリア以外で魔法が二種類使える者など我はしらんぞ。
それに先ほど話していた使い魔も魔法だろう。
まったく化け物じみておるわ」
さすがというかなんというか。伊達に……痛い。
そうですか。話の流れで予測される場合もダメなんですか。
というかこれ絶対魔法だよね。
そんな話をしているとジルさんが不意に口を開いた。
「なあサイトウ。あんたもしかしたら別の場所いけるかもしれないよ」