幕間:今日もお茶がおいしいです。
「……ねぇアスフェルちゃん、いまさらだけどミリアさんってどういう人なの?」
「アスフェルでは呼びにくかろう。アスでよいぞ。
近しい者は皆そう呼ぶ」
「じゃあ改めて、アス、ミリアさんってどういう人なの?」
「うむ、ミリアについては謎が多くてな。
おじい様やおばあ様が幼い頃にはすでにこの森に住んでおったと聞いておるが、それより昔のことについては良く分かっておらん。
……なに頭を守っておるのだ?」
防衛本能といいますか経験といいますか。
どうやらこのラインはセーフらしい。
またひとつ生活の知恵が増えました。
「ミリアのことを尋ねたこともあったのだが、なぜか皆周りを警戒してあまり話してくださらなかった。
それ故我の知っていることしか話せぬがそれでもよいか?」
「もちろん。お願いするよ」
「ゴホン、では話すとしよう」
我の誕生日のことだった。
たくさんの者が祝いの品を持ってきてくれ、ミリアも持ってきてくれたのだ。
その頃の我がミリアについて知っていることといえば、父上にも一目置かれているすごい人ということぐらいだった。それ故そんな人が自分のために祝いの品を持ってきてくれたことを知って我は無邪気に喜んだ。
そしてそれが髪飾りだと聞くとすぐにつけてくれと頼んだのだ。
……今なら間違っても頼まんのだがな。
ミリアは「じゃあつけてあげるから目を閉じてて~」
というと我につけてくれたのだ。
最後に「とれないようにおまじないかけてあげる~」
といってな……。
そのあと父上に見せに行った時のことは忘れられん。
父上が空を仰いで「言っておくんだった……」
と呟いている光景を。
結局とれず一日中大きな半笑いのクマの髪飾りをつけておったのだ。
「……」
「……」
「アス、お茶飲まない?」
「うむ、頂こう」
「……(ズズッ)」
「……(ズズッ)」
「ところでミリアさんについて何か知ってることがあったら話してくれないかな?」
「よかろう、では話すとしよう」
あれはまだ我が幼い時、狩りで疲労した帰り道でキングリザードに襲われたのだ。
リザードマンの王たる者がそのあたりをうろついているはずがない。
大方王の後継たる我を狙っていたのだろう。
万全の状態でも油断できぬ相手。疲労した状態では勝ち目が薄かった。
そんな時だ、ミリアが現れたのは。
ミリアは「もう大丈夫よ」
と我の頭を撫で9体の狐の使い魔を出したのだ。
ここからが戦いのはじまりだった。……いや、戦いとは言うまい。
「我ら狐の使い魔部隊。ミリア様の命により成敗させていただく!」
そういった瞬間、キングリザードの後ろの地面から狐が出てきたのだ。
「馬鹿め! 九尾の使い魔だから9体だと思ったか!」
そいつはキングリザードの口を魔道具で閉じブレスを封じた。
そのスキに2体の狐が両足を凍らせ動きを止め、1体の狐が剣を奪い、2体の狐が鎖で腕を縛り、2体が弱体化の呪文を唱え、2体が投石を始めたのだ。
それはもう我が不憫に思うほど一方的だった。
哀れになってきたて途中で「もう良いのではないか?」
と言うとミリアはその処刑をやめてくれた。
「今回リザちゃんは悪い子だったから木の実じゃなくて石にしたわ。
もうしちゃだめよ。反省した?」
「すいませんでしたすいませんでした生まれてきてごめんなさいもうしませんもうしません」
「反省してるみたいね。じゃあ後はちゃんと仲直りするのよ」
そうして我らは仲直りをし、我は無事に家に帰ったのだ。
「……」
「……」
「……(ズズッ)」
「……(ズズッ)」
「ミリアさんどこにいったんだろうね」
「人の紹介で報酬を要求したということはこの森の住人ではあるまい。
どこまで行っておるかは知らんがそのうち帰ってくるだろう」
「ミリアさんだしね」
「だしな」
今日もお茶がおいしいです。