第6話 島での穏やかな日々
朝目を覚ますと、まずは顔を洗うために洗面所に行く。
「おはようございますタケルさん」
「おはようミリア」
そこに居たのは一足先に顔を洗っていたようだ。
「今日は読み書きの勉強ですか?」
「いや、午前中は剣術をフィリから、午後には魔法をジードから特訓してもらう予定だよ」
「そうですか、では今日はお互い別行動になりそうですね」
そう言ってミリアは僕の右頬にキスをして去って行った。
僕の右頬は火傷で爛れており、感触を感じることはない。
右目も視力が失われており、物を見るには左目を使うしかない。
でも、暖かい気持ちを感じ取り、ニヤついてしまうのはしかたないだろう。
フィリというのはこの島、というよりこの町の警備隊の指南役をしている赤い髪をしたお兄さんのことだ。
ジードは魔法具屋を営んでいる白髪のおじいさんだ。
この島にも森はあり平原はあり、町も3つある。
その町を隔てているのは魔物の存在であり、その脅威は軽視できない。
朝ご飯を食堂で貰い、食べてから駆け足で演習場に向かう。
「タケル、遅いぞ」
「ごめんフィリ」
演習場は大きな建物の中にあり、鎧を着た案山子に向かって警備隊の面々が模擬刀を打ち込んでいた。
「まったく。じゃあ始めるか」
「はい!」
僕も模擬刀を取り、フィリへと打ち込んでいく。
「そうだ、そうやって脇を締めるんだ」
「はい!」
模擬刀同士のつばぜり合う音が演習場に響いていく。
いつの間にか他の隊員がこちらの特訓を観察し始め、僕とフィリが打ち合う音と荒い僕の息づかいだけが響いている。
キンッ
「ああ!」
「よし、ここまで!」
「ありがとうございました!」
「うん、最初に比べてずっといいよ。そろそろ剣術スキルを習得できるんじゃないかな」
剣術スキルは剣をある程度使える者が習得できるスキルだ。
そのスキルを入手して初めてフィリの特訓は終わりだそう。
「本物買ってもいいかもね」
フィリがぼそっと言ったのを僕は聞き逃さなかった。
「え?買って良いの?」
「しまった。でも扱いもわかってきたからね」
剣が扱えるようになるまで模擬刀で我慢しろと言われていた。
それが解禁になったのだ。
「午後からジードと特訓なんだ。それ終わったら買いに行くよ」
「わかった。ああ、ミリアを連れて行けよ。この間、タケルのことあまり独占するなって怒られたよ」
「わかってる。自慢じゃないけど無一文だし」
「ははは。そうか」
そして浮かれた足取りで教会に戻り、食事をご馳走になった。
――――――
午後はジードとの魔術訓練だ。
「魔術は魔力の扱いが上手い者がそれを制す」
「はい…。とは言ってもこれ8回目ですけど何も感じ取れないんですが」
「静かに。前回より良くなっておる」
うーむ。
座禅を組んで、自分の内なる魔力を動かす。
…らしいが、あまり手応えがない。
昨日、ミリアにコツを聞いてきたんだが――
「魔力は体の中を自然に巡っています。それに逆らおうとするのではなく、添えるだけと言いますか…」
――と言っていたので、彼女をしても魔力は漠然としたものなのだ。
むむむ。
「はあ…、今日はここまでと…」
僕が今日の訓練を終わらせようと気を抜いたとき、なにか、もぞっと体の内側を動く感じがした。
まてまて、と座り直す。
ジードは片眉を上げたが、変わらず座禅を組んでいる。
自分の内なる魔力…、気を抜いたときに現れた。つまり…。
ピコンッ
んん?
なにかゲームの中の効果音らしきものが聞こえた。
「ジード、何か聞こえましたか?」
「…何も聞こえなんだが。聞こえたとすればそれはスキルを得たときの音であろう。確認するといい」
「スキル!?か、確認とは…」
「教会でできるぞ、ミリアに確認してもらうといい」
「わかった!ありがとうジード!」
手を振るジードを後に、教会へ急ぐ。
スキルを得たのは本当なのか。
それを確かめるように、教会へ入る
「あら、タケルさん。今日はもうおしまいですか?」
「ミリア!探してたんだ」
「探してたとは………!スキルですか!?」
話が早くて助かる。
「そう!なにか獲得したみたいなんだ、確認するにはどうすればいいんだ?」
「こっちです!」
ミリアに案内されたのは礼拝堂の奥、創造神像の前に置かれた石板だ。
「これに魔力を流せばスキルを見られますよ。はやくはやく!」
わかった。
石版に両手を着き、魔力を流す。
――――――
スキル
【魔力操作】
――――――
シンプルなものだった。
しかし、僕の思いが溢れて泣き出すのには十分だった。
「え?え?タケルさん?どうして泣いているのですか?」
「いや、いいんです…。僕も、僕にもスキルが…」
「なるほど…」
ミリアはしゃがんで泣いている僕に寄り添い、ぽんぽん、と背中をさすってくれた。
僕が泣きやむまでずっと。
そして僕は、努力すればスキルを得られるということが判明したのであった。
今までよりもずっと努力するようになった。
そして1年後。
――――――
スキル
【魔力操作】
【魔力探知】
【氷魔法】
【雷魔法】
【聖魔法】
【剣術】
【体術】
【豪腕】
【魔闘法】
――――――
そんなある日、島外から商隊が大きな船でやってきた。
その出会いが僕を大きな世界に連れ出してくれた。




