第3話 どうしてこうなった
「はあはあ…。これで最後………」
「おい新入り!ノロノロしてんじゃねえ。これを上に運ぶんだ」
この現場に来てから1週間は経っただろうか。
あれから作業員全員に挨拶した後、すぐにこき使われていた。
あっちへいけ、これを持て、そっちじゃねえ、グズだな。
全員とは言わないが、大多数の作業員から嫌われているようだ。それは働き始めてすぐにわかった。
もう謝る体力も、刃向かう気力も尽きてしまった。
僕はどこに居てもこういう運命なんだと認めるのに時間がかかってしまった。
生活環境もそう思わせるのに一役買っている。
掘っ立て小屋にみんなで雑魚寝だし、食事はあからさまに少ないし。
どれもこれも新人だからしかたないって思おうにも限界が来ていた。
しかし、今日は給料日である。
生まれて初めての給料はやっぱり嬉しいものだ。
「よーし、今日はここまでだな」
チーフがそう告げる。するといつもはみんな食事場に移動するが、チーフのもとに集まる。
いよいよだな。
年長者や長年働いている人から順に給料が渡されていく。
もちろん僕は最後だ。
「最後に新入り、頑張ったな、ほれ」
「あ、ありがとうございます」
渡された麻袋は実際よりもずっと重く感じた。
そそくさと一団から離れて中身を確認する。
銀貨が7枚と大銅貨4枚、小銅貨6枚か。
まだ買い物をしたことがないので、これらの貨幣がどれくらいの価値なのかわからない。
でも初めて働いて、初めて貰った給料はなんだか輝いて見えるようだ。
思わず涙が流れる。
これでスタート地点だ。
そこに宿舎担当と食事担当の二人が歩いてくる。
「おう新入り、給料もらったか」
「じゃあ、立て替えてたのを貰うぞ」
え?
「なんだ、驚いた顔して」
「兄貴、こいつ知らないんじゃないですか?」
え?え?なんのこと?立て替え?
「ここの泊まり賃と食事賃は立て替えなんだよ。無料じゃねえ」
「兄貴の言うとおりだ。さ、渡して貰おうか」
そう言うなり僕の給料が入った袋を奪う先輩。
「なんだ、これで全部か?」
「兄貴、新人だからしょうがないですって」
「まあそうだな。足りない分は大目に見てやる」
そして空の麻袋を僕の方に投げてきた。
「なんで――」
「ああ、そうそう、チーフに言っても無駄だからな。そういう話嫌いだから」
「そうだぞ。兄貴の言うことはよく聞いとくんだな」
僕が反論するのを大きな声で遮って、捨て台詞を吐くと先輩二人は行ってしまった。
その頃にはもうチーフも、みんなもいなくなってしまっていた。
僕は空の麻袋を握りしめ、先ほどとは違う涙を流す。
くそっ………
くそっ………………
くそっ………………………
幸いなのは工事現場の契約は7日ごとであり、いまさっき契約は終了したことだ。
ただ働きさせられずに済む。
今日も現場の寝床を使えば契約は更新と見なされるのだろうか。
もう相談するところも………。
「ギルドに行こう」
ここの職場を紹介したのはギルドだ。
そこなら文句も言えるかもしれない。
僕は重い足取りでギルドを目指した。
――――――
時は夕方、町の方は静かになっていくのとは逆に、ギルドの建物内は前に来たときよりも騒がしかった
「え?給料が食費と宿泊費でなくなったって?」
「そうです。天引きだと思ったのに、後払いだったんです」
僕は職業案内所のお兄さんに打ち明けていた。
お前さんが紹介したんだぞ、って意味を込めて訴えかけた。
「うーん、そこが問題になったことは今までないんだけどな」
「でも給料実質ゼロっておかしくないですか?」
「いや、実はなくはないんだよ。最初は使えるかどうか見るだけだから給料なしってね」
「おかしいですよ!」
「だから、食事と寝るところは与えたからいいだろって考えはまだあるんだよ。忌むべき文化だね」
なる…ほど…?
でもお兄さんは悪くないのはわかった気がする。
「残念だけどこの王都だとそういう依頼は多いかもしれない」
そういう文化だから、された方も文句は言わない、言えない。
「………わかりました。じゃあもう少しやってみます」
「がんばって」
そして僕はすごすごと城壁の現場に戻った。
ここで終われないから。
――――――
「新入り!あぶねえ!よけろ!」
その時は突然訪れる。
あれから2日経ち、やっと気持ちの整理がついてきた頃。
上からレンガが落ちてくるのが、スローモーションのように感じられた。
「うっ!」
ガツっと地面にレンガがぶつかり、僕の頭はスイカ割りのスイカではなくなった。
代わりに足を捻挫した。
「おいおい、大丈夫か?」
「はい、だいじょう……うっ!」
足が痛い!右の足首を捻挫したようだ。捻挫にしては痛いが、骨まではいっていないだろう。
「何の騒ぎだ!?」
チーフがドスドスとやってきて僕の怪我を見る。
「捻ったか。立てそうか?」
「はい…。なんとか」
チーフは立ち上がり、しばらく悩んでいたようだが、次の瞬間、僕にとって終わりとも言える一言を放つ。
「お前を解雇するしかねえな」
「え…」
「すまねえが、動けない者にタダ飯食わせられるほど余裕は無いんだ」
「………そうですか」
「2日分の給料払うから、なんとか自分で直してくれ」
そしてチーフの気持ちが入った銀貨3枚を手にした僕は、宿泊費と食費を徴収される前に、足を引きずりながら市街地へと入っていった。




