第1話 召喚、しかし変わらぬ
「おい、あいつどこ行った?」
「あれっ、授業中は居たがな…」
「くそっ、明日だな…」
学ラン姿の5人は教室を後にする。
そして、教室には誰も居なくなった。
誰も居ない空気を感じてか、ガタガタと揺れる掃除用具入れ。
「い、いなくなったかな…」
ぎぎぎ…と開いたそこには、用具入れにシンデレラフィットした男の子が一人。
そう、僕、松村健、高校1年生である。
「あ、あれ?出られない…」
僕はこの見た目でいつもいじめられてきた。
小太り…というにはちょっと太りすぎかなってくらいの体格。
父親譲りの豚鼻もあってか、いつぞや付いたあだ名はデブタケ。
デブとブタと名前のタケルの悪魔的融合だ。
まあ、太っている自分も悪い。そう思い、ダイエットを始めて久しいが、ストレスから来る食欲とご飯の美味しさに負けている自分がいるのも事実だ。
しかし、あだ名にとどまらず、いじめは日に日にエスカレート。
殴る蹴るなど優しいもので、お弁当を捨てられる、トイレに行くのを邪魔されて粗相するのを嗤って見ているなど、人間性を疑うものまで出てくる。
クラスのみんなは黙って知らんふりをしている。第2のデブタケにならないように。
今日は暴力の気分だったのか、放課後の遅くまで殴られていた。
隙を見て逃げ出せたは良いものの、掃除用具入れにハマってしまったというわけだ。
「うう…、ぐぬぬぬ…」
そして(ベコンッ)という大きな音と共に用具入れから脱出に成功する。
「はあ、はあ、抜けた…」
しかし無念、用具入れは歪んでしまい、蓋が閉まらなくなってしまった。
「やばい…、どうしよう…」
この壊れた用具入れはきっとクラスの担任に見つかって裁判が始まるだろう。
校門が閉まるまでの短い間、僕は泣きながらなんとが直すのであった。
――――――
「…で、この壊れた掃除用具入れは誰が壊したんだ?」
直らなかった。
翌日の帰りのホームルームで議題に上がり、担任は怒り心頭というような感じであった。
「はーい、デブ…じゃなかった松村君が昨日最後までいました-」
「なに?そうなのか?松村!その時は壊れてたのか?だれがしたか見たのか?」
くうぅ…、いじめ主犯格の寺田が先生に告げ口する。
「はい…、その時は………!!!」
「うわっ、なんだ…!!!」
僕がしぶしぶ立ち上がり、説明(嘘)をしようとしたとき。
教室の中央から光が立ちのぼり、教室全体を光で埋め尽くした。
クラスのみんなが騒ぎ始める頃、光はすぐに収まった。
しかし、みんなのざわめきが収まることはない。
なぜなら今いる空間が、教室ではなく冷たい石畳と石壁で覆われた薄暗い空間だったからだ。
「勇者様方!よくぞ私たちの呼びかけに応じてくださいました!」
この空間には他にも人がいた。その人たちはローブを被っており20人ほどだろうか、僕たちを囲うようにして円陣となっている。
そしてその中の一人がローブの帽子を取って高らかに声を上げたのだ。
なんと緑!緑の髪を肩口まで伸ばした女性だ。
年頃は僕たちと同じぐらいだろうか。綺麗な人だ。
というか、勇者?勇者って言ったよね。
もし僕の予想が正しければ、読んでた小説みたいに王様に謁見しちゃったり?
「勇者様方のご動揺もわかります。急に召喚魔法で連れてきてしまい申し訳ありません」
魔法って言ったよ!もう確定なんじゃない!?
「これから王の御前で勇者の称号を授与する前にスキルの確認と我々の世界について説明させてください」
辺りはようやく静かになり、女性の指示で周りのローブ達が動き始めた。
そしてスキルの鑑定が進む中、女性は説明を続ける。
要約すると、魔王を倒すために召喚したそうだ。女性は王女だとか。
うん、そうだよね。
でも今は話よりもスキルが気になる!
周りのみんなは強そうなスキルとか魔法とかのオンパレードである。
これはワクワクが止まらない。
そして僕の番が来る。
「この板に手を添えてください」
大きなクリスタルが付いた透明な板を触る。
一瞬、板が光ると、異世界語らしきものが表示される。
しかし、1行だけである。
めっちゃ強力なスキルなのかな?
「な…、なんてこと!」
「どうしました?」
「スキルなしです!0個です!」
え………、どういう………
「どいて、どいてください」
その叫びを聞いて王女様がクラスのみんなをかき分けてきて、その板を見るなり顔を青ざめさせる。
「こんなことがあるなんて…」
王女様はなにやら考え込んでいるようだ。
「おいデブタケ、スキルゼロだってよ」
「やば」
クラス中がざわめき立つ。
「おいおい、じゃあデブタケなんで異世界来たんだよ。役立たずなのになあ」
寺田がうざい。それより今後の処遇が気になる。
「あ、あの僕どうなるんですか…」
王女様は俯いて考え込んでいた頭を上げて、告げた。
「申し訳ありませんが、城を出ていただきます」
追放かあ………
クラスのみんなの笑い声と、ローブ姿達の眉を顰める表情が僕の目の前を真っ暗にしかけた。
「街へ下れ」
「城には近づくな」
城門の番兵2人に背中を押され、ハッとする。
「あ、あの、お金とか…ないんですか」
「ん?そんなものはない。さっさと行け」
「王女様はくれるって言ってましたよ!!」
「とことん気持ち悪いやつだな!王女様と気安く呼ぶな!」
番兵は槍の石突を振るって僕にぶつける。
その衝撃で尻餅をついてしまった僕は、笑う2人から逃げるように城下町へ降りていった。




