拝啓 兄上様
沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので。蛇足かもしれませんが。
寒々しかった木々の枝もすっかり緑の衣を纏った今日この頃、そちらはどんな様子でしょうか。兄様の周りに植えた花達が競うように葉を広げているのでしょうか。
あの頃はそちらが余りに寒々しかったので、僕が色々取り揃えて自分で植えてみました。庭師の御爺にもそれはもう厳しく教えられました。
きっと、月が一巡りする頃には色取り取りの花が咲いて賑やかになりますよ。楽しみにしていて下さい。
そうそう、僕の婚約者……まだそう呼ぶのは照れてしまいますが、彼女が兄様に贈ってくれた花も植えたんですよ。どれか当ててみて下さいね。
まだ彼女と一緒に兄様の所へは伺う事叶いませんが、 結 婚 した暁には、領地へと共に参ります。あぁ、自分で書いておきながら、情けない事に顔が熱くて仕方がありません。彼女に髪飾り一つ贈るのにも、未だに私の耳の奥に轟々と血の巡る音が聞こえる有り様なのです。
兄様は大層ご令嬢方に人気がお有りでしたから、こんな風に贈り物一つで悶えてしまう事など無かったのでしょう。僕にも兄様のように爽やかな笑顔で何事も熟すような器量があれば良かったのですが、残念ながら何年経っても無理そうです。
兄様、僕は毎日を幸せに生きています。そりゃあ、父上の扱きは容赦無いですが、僕が困らない様にしてくれていると分かっています。婚約者は笑うととても可愛らしくて、風に揺れる花のようです。いつも甘い柑橘の香りがしていて、一番近くに居ることを許されているこの身の幸運に感謝しか有りません。
エスコートの際に手に触れる栄誉を賜るのですが、やわ ふんわりと柔らかくて、すべすべで、爪なんて桃色で小さくて、まるで兄様に以前頂いた硝子細工のように艶々で、世の恋人達のようには怖くてまともに手も繋げません。握ったら壊れてしまわないか心配なのです。
そうそう、聞いて下さい。彼女とやっと身長が並んだのです。この頃関節が痛むので、直ぐに兄様にも追い付きますよ。
あの甘い焼き菓子のような髪が、ふっくらとした頬が、唇が、僕の目線に近く……くらくらしてしまうのです。
兄様だけにこっそり相談したいのですが、最近、彼女の事を考えるだけで、夜が眠れなくて困ってしまって……。父上にも言い難いし、悪友達に言えばからかいが待っているに決まっています。
兄様さえ居てくださればと、詮無き事を考えてしまいます。
夢でも良いので、会いに来て助言を頂ければ幸いです。僕はずっと、ずうっっと、兄様が会いに来て下さるのをいつまでも待っていますからね。
それでは、便箋も2枚目が埋まってしまったので、名残惜しいですが今回はここ迄に致します。
また、手紙を書きますね。
貴方をいつまでも愛している、只一人の弟より
文中の空白と妙な位置の平仮名は『僕』が書き間違いをそのままにして封筒に入れたからです。
他の誤字脱字があれば、作者の脳の容量不足です。キャッシュが溜まりまくってます。




