「悪意、その名は《ロスト》」
夜の南公園。
戦いの痕跡を残し、五人は静かに佇んでいた。
煙は消えたが、胸のざらついた感覚だけが残っていた。
赤城大介が口を開く。
「なぁ、あの“影”…あれ、なんだったんだろうな。」
青木仁はスマホのデータを確認しながら答える。
「解析結果、出た。
あの存在には“心拍も体温も生命反応も”ない。
けど——“脳波パターン”だけが残ってた。」
「脳波?」楓が首を傾げる。
「つまり……意識の残骸、ってこと?」
静がぽつりと呟く。
「夢を…諦めた人の想い、かもしれないわ。」
その瞬間、スマホから再び声が響いた。
> 『敵性存在、コードネーム《ロスト》。
夢を失った魂の残滓。悪意へと変質した思念体。』
公園の空気が一気に冷たくなる。
桃子が小さく息を呑む。
「夢を失った魂……それって……私たちだって、そうじゃない?」
誰もすぐには言葉を返せなかった。
消防士として人を救う日々に追われ、
警察官として正義を貫くために心を削り、
病院で命の限界を見続け、
華やかな世界で笑いを貼り付け、
そして、日常に“あの頃の夢”を置き去りにしてきた。
赤城は拳を握る。
「……もしそれが本当なら、放っておけねぇな。
夢を忘れた魂が苦しんでるんなら、俺たちが——救ってやる。」
青木が小さく頷く。
「つまり、俺たちの敵は、“過去の自分”ってわけか。」
緑山が微笑む。
「上等じゃない。だったら、今度こそ負けない。」
楓が注射器型のガジェットをくるりと回す。
「患者さん(ロスト)は、しっかり治療してあげなきゃね。」
桃子が長い髪をかき上げながら言った。
「ふふっ、いいじゃない。大人のヒーロー、悪くないわ。」
赤城がマフラーを結び直す。
「……よし。じゃあ、リブート二日目だ。」
スマホが光を放つ。
画面には、新たな指令。
> 『悪意反応拡大中。次の出現地点:市街商店街ブロック。』
五人はそれぞれ頷き、歩き出した。
誰もが、胸の奥で同じことを思っていた。
——戦う理由は、もう“誰かのため”じゃない。
——今度は、“あの日の自分”を取り戻すために。
夜風が吹き、五色のマフラーが一斉になびいた。




