第96話 素材を求めて
「さて、とりあえず必要な素材を整理しましょうか!」
ローザが机に紙を広げ、鮮やかな字で書き込んでいく。
「まずは防御力強化に《鉄鱗の革》。これはスケイルリザードからのドロップね。で、俊敏を補うために《風翔鳥の羽根》。これは丘陵地帯に生息してる鳥型モンスターから。最後に、毒耐性を付与するための《黒百合の樹液》。これはどこに咲いてるか……アタシも知らないのよねぇ」
「知らないって……」シアンがため息をつく。
「情報はNPCやプレイヤーに聞けばいいじゃない。あら、情報収集も冒険のうちよ?」ローザは軽くウィンクした。
リントは「黒百合……どんな花かな」と小声で呟き、ロアスは無言で腕を組む。
王都の大通り、NPCの薬草屋に立ち寄ると、白髪の老人が答えてくれた。
「黒百合なら北の湿地に咲いておるぞ。ただし毒霧が出る。気をつけるんじゃ」
「湿地、ね……」
「毒霧対策に布を巻くといいわ」ローザが顎に手を当てる。
さらにプレイヤー掲示板を確認すると、複数の投稿が見つかった。
《スケイルリザードは岩場の洞窟近くが効率いい》
《風翔鳥は群れでいるから注意! 羽根は低確率ドロップ》
「ふむふむ。じゃあルートは――洞窟で鱗革を取って、その足で丘陵で羽根を。最後に湿地で黒百合、って感じね!」
「決まりだな」シアンは頷き、準備を整えて出発した。
最初の目的地は洞窟。スケイルリザードが群れを成して現れる。
「来たわよ! 気を抜かないで!」ローザが大斧を担ぐ。
「リント、落ち着いて光を一点に!」シアンが叫ぶ。
リントが前足を踏み出し、光の矢を発射。リザードの足を射抜き、動きが鈍る。その隙にシアンが凍光包丁で切り込み、氷魔法で鱗を凍結させた。
「割れろっ!」
砕けた鱗片が散らばり、そこから鉄鱗の革がドロップした。
「いい感じねぇ! さすが私の未来のモデルちゃんたち!」ローザが豪快に笑う。
次は丘陵地帯。風翔鳥が数羽、空を舞っていた。
「空中戦は面倒ねぇ」ローザが舌打ちする。
「ロアス、跳べ!」
シアンの声にロアスが大地を蹴る。鋭い蹴りで一羽を叩き落とし、リントが咄嗟に光弾を撃ち込む。
「今だ!」シアンが包丁で斬りつけ、羽根が舞い散った。
「羽根、落ちた!」リントが嬉しそうに拾い上げる。
最後は北の湿地。濃い霧が漂い、鼻を突く毒の匂いが充満していた。
「やだ、化粧が崩れるわ……」ローザが布を口に巻きながら嘆く。
「化粧より命だろ」シアンが苦笑する。
湿地の奥で黒い花弁が揺れていた。
「これが黒百合……」リントが目を丸くする。
慎重に採取し、透明な樹液を瓶に集めた瞬間、湿地のモンスター《毒沼スライム》が姿を現す。
「来たか……!」
シアンが前に出て氷の壁を展開、棘を生やしてスライムを貫く。ロアスが蹴りで押し戻し、リントが光弾を重ねた。
「はぁっ!」包丁で核心を斬り裂くと、スライムは毒霧を散らしながら消えた。
瓶には無事、黒百合の樹液が光っていた。
「これで全部揃ったわね!」ローザが両手を打ち合わせる。
「これでリントを守れるんだな」シアンが胸を撫で下ろす。
リントは大切そうに羽根を抱えながら、尻尾をふりふり揺らした。
王都に戻る道のり、胸の中には確かな達成感があった。
防護服に必要な素材がついに揃いました! 戦闘と採取を経て、一歩ずつ進む仲間たちの姿に絆が深まっていきます。次はいよいよ制作編へ。
次回も18時更新です。




