表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/101

第90話 凍光包丁の真価は台所で

森の奥。木々の間を抜けると、苔むした岩場の影から小型の猪型モンスターが飛び出した。

「リント、任せた!」

「うんっ!」


リントは地を蹴り、白銀の毛を逆立てる。掌に宿した光が凝縮し、閃光のように猪へ叩き込まれた。

「ルアアッ!」

まぶしい一撃に猪が怯んだ隙に、リントは鋭い牙で喉元を噛みつき、転がして押さえ込む。


「……やるな」

ロアスが感心したように言い、シアンは急いで討伐完了の確認をする。

《ドロップ:猪肉・野草スパイス》

「よし、これで材料は揃った」




マイホームに戻ると、庭に植えた芽がほんの少し伸びていた。

「お、順調だな。……さて、料理の時間だ」

シアンは猪肉を調理台に置き、凍光包丁を手に取る。刃が青白い光を放ち、冷気がゆるやかに広がった。


まずは下処理。脂を削ぎ落とすと、冷気が肉に染み込み、血の匂いが驚くほど抑えられている。

「……これはすごい。臭みが全然残らない」

包丁の軌跡に沿って肉の繊維が整い、切り口は滑らかでしっとりとしている。まるで高級肉のような仕上がりだ。


ロアスが横から覗き込み、低く唸った。

「戦場だけでなく、台所でも力を発揮するか」

「ほんと、万能すぎるね」

シアンは笑いながら野草スパイスを刻む。包丁が触れた瞬間、香りが強く立ち上り、リントが鼻をひくつかせて目を輝かせた。




かまどに鍋を置き、肉とスパイスを煮込む。煮立つ香りは芳醇で、包丁で整えられた肉が崩れることなく柔らかく仕上がっていく。

完成したのは「猪肉のスパイスシチュー」。深い茶色のスープに肉と野菜が泳ぎ、湯気がゆらゆらと立ちのぼる。


「さぁ、できたよ」

シアンが器を並べると、リントは真っ先に飛びついた。

「おいしい!すっごくおいしい!」

小さな口いっぱいにシチューを頬張り、尻尾をぶんぶん振る。


ロアスは黙って口に運び、しばし沈黙した後で短く言った。

「……悪くない。肉の質が別物だ」

それは、彼なりの最高の褒め言葉だった。




シアンは器を抱きながら、ふっと笑みをこぼす。

「戦闘だけじゃなく、料理の品質も変えてしまうなんて……この包丁、本当に俺らしい武器だな」


冷気を宿した刃が、戦いと食卓、両方の未来を切り拓いていく。


次回18時更新です。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ