第89話 凍光包丁の力
王都近郊の草原フィールド。
シアンは新たに手にした凍光包丁を握りしめ、目の前の狼型モンスターを睨んだ。
「よし……試してみよう」
鋭い牙をむいて突進してきた狼へ、シアンは低く構えたまま踏み込む。包丁の刃が月光を反射して一閃。
「はっ!」
切っ先が狼の肩を浅く裂いた瞬間、青白い冷気が弾ける。
「……え?」
狼が動きを止め、まるで足が重くなったかのように速度を落とした。
「シアン、今の……」
ロアスが驚きの声を上げる。
「うん、たぶん……包丁の効果だ!」
狼は鈍った動きで反撃しようとするが、リントが光弾を撃ち込み、シアンが追撃する。
再び刃が閃くと、冷気が絡みつき、今度は後ろ足まで凍結しかけていた。
「確率……っぽいな。毎回じゃない」
試しに数度攻撃しても氷結は発動せず、五回目でようやく狼の動きが再び鈍った。
「二、三割……ってところか。発動すれば、数秒は相手が鈍るな」
狼を仕留め、シアンは息を整えながら凍光包丁を見つめた。
刃の根元に淡い氷の紋様が浮かび、まだ冷気をまとっている。
「これは……大きい。氷魔法の補助にもなるし、近接でも主導権が握れる」
シアンの声に、リントが尻尾を振る。
「すごい! これならもっと勝てるよ!」
ロアスも小さく頷いた。
「くだらんと思っていたが……これは使える」
その後も数体のモンスターで試し、シアンは確信した。
—凍光包丁は、ただの調理器具ではない。戦闘においても“氷の副作用”を発揮し、戦況を変える切り札になり得る。
「戦闘も料理も……やっぱり、この包丁は俺にとって最高の武器だな」
シアンの言葉に、リントが「晩ごはんにも使える?」と無邪気に聞く。
「もちろん。今日の食材も、この包丁でさばいてやろう」
そう言って笑うシアンを見て、ロアスはふっと目を細めた。
氷と料理をつなぐ武器。その力は、彼らの冒険をさらに広げていくことになる。
次回18時更新になります。




