第87話 芽吹きと新たなシステム
運営会議室。
巨大なスクリーンには、プレイヤーたちのマイホームの様子が並んで映し出されていた。
「次の生活系コンテンツ、“花育成システム”を正式稼働させます」
進行役のスタッフが言うと、ざわめきが広がる。
「花……ですか?」
「はい。花はただの観賞用ではなく、育て方によってプレイヤーに軽微なバフ効果を与えるよう設定しました。種類や育て方で効果が変化するので、戦闘職も生産職も楽しめます」
「ふむ……シアンというプレイヤーがすでに植木鉢を設置しているな」
別のスタッフが画面を拡大すると、そこには土から小さな芽をのぞかせた植木鉢が映っていた。
「彼は特殊な氷魔法持ち。花との相性もテストケースとして面白いでしょう」
会議室に頷きが走り、新しいシステムの解放が決定された。
マイホームの庭。
「……出てる」
シアンは植木鉢を覗き込み、土の間からちょこんと顔を出した緑の芽を見つけた。昨日まではただの土だった場所に、小さな命が確かに宿っている。
「ほんとだ!ちっちゃい!」
リントが飛び跳ねて喜び、ロアスは腕を組んで黙って見下ろす。
「芽が出たからといって油断するな。ここから先が大変なんだ」
「花育て経験者みたいな言い方するなよ」
シアンが笑うと、ロアスは視線を逸らした。
その時、ウィンドウが表示された。
《新機能解放:マイホーム“花育成システム”》
《現在の状態:芽吹き》
《今後の成長によって一時的バフが得られる可能性があります》
「バフ……?」
思わずつぶやくと、リントが目を輝かせる。
「ねぇねぇ、花が大きくなったらぼくたち強くなるの?!」
「どうやら、そういうことみたいだ」
シアンは笑いながら芽に水をかけ、そっと声をかける。
「大きく育ってくれよ」
氷魔法で周囲の湿度を整えると、芽がわずかに震えたように見えた。ロアスは黙ってそれを眺めながら、低く呟いた。
「くだらん……だが、悪くない」
芽吹いた小さな緑は、まだ正体を見せていない。どんな花が咲くか、どんな力をもたらすかは、まだ誰にも分からない。
だがその不確かささえ、シアンたちにとっては新しい楽しみだった。
芽吹きと同時に、新機能「花育成システム」が解放されました。
これからどんな花が咲くのか……楽しみですね。次回も18時更新です!




