第85話 氷と甘味で彩るひととき
王都の市場は、昼を迎えてさらに賑わいを増していた。屋台には色とりどりの果物が山と積まれ、甘い香りが通りを漂う。
「今日は……デザートだな」
シアンは迷いながらも、真っ赤に熟れたイチゴと、香り豊かな桃、さらにバナナを手に取った。
「ロアス、これで何を作ると思う?」
「……甘ったるい菓子だろうな」
呆れたように肩をすくめるロアスの横で、リントは目を輝かせていた。
「わーい!あまいのだ!」
◇
マイホームに戻ると、木製のテーブルに材料を並べた。果物の色彩が庭の光に映えて、美しい。
まずはシャーベット作りだ。イチゴと桃、バナナを切り分け、魔力を込めて氷魔法でゆるやかに冷やす。果汁が薄氷に包まれ、瞬く間にシャリシャリとした食感へと変わっていく。
「氷魔法、こういう時に便利だな」
匙でひと口すくって差し出すと、リントはぱくりと食べて「ひゃー!つめたい!でもおいしい!」と跳ね回った。
ロアスは一口だけ試し、無言のままもう一口。だが視線を逸らす様子は、わかりやすい満足の証だった。
◇
続いては、アップルパイ。市場で仕入れたリンゴを薄く切り、バターと砂糖で煮詰める。甘酸っぱい香りが部屋いっぱいに広がり、リントは鼻をひくつかせて「いいにおい〜!」と背伸びして覗き込む。
「ロアス、甘いのは苦手だろ?」
問いかけると、彼は淡々と答えた。
「……だが、匂いは悪くない」
パイ生地を重ね、かまどに入れる。焼き上がるまでの間、外の庭でロアスとリントが追いかけっこをしていた。やがて、かまどの扉を開けると香ばしい匂いと黄金色のパイが姿を現す。
切り分けたアップルパイを口にしたロアスは、一瞬だけ目を細めた。
「……これは悪くない」
その言葉は、彼なりの最大級の賛辞だった。
リントはすでに頬をいっぱいに膨らませて「おかわり!」を連呼している。
◇
氷の冷菓と、温かな焼き菓子。相反する二つの甘味が、一日の中に小さな祝福を与えてくれる。
シアンは食卓を見渡し、思わず笑みをこぼした。
「こういう時間があるから、戦う意味もあるんだろうな」
外の庭には、先日植えたばかりの小さな花の鉢が並んでいる。その成長と同じように、自分たちの日常も少しずつ色を増していくのだろう。
今日は「氷魔法 × 料理」のコラボ回でした。
次回も18時更新です!お楽しみに。




