第82話 氷華刃の輝き、三位一体の戦い
冷気を纏った大地に、モンスターの咆哮が響いた。王都近郊の訓練フィールド――広がる雪原に、灰色の巨狼が二体、低く唸り声を上げる。
「よし……新スキル、試してみるか」
シアンは一歩踏み出し、右手に魔力を収束させた。掌から氷が花弁のように展開し、やがて鋭い一振りの刃となる。
《氷華刃》――新たに得た力が、白い吐息の中で煌めいた。
「俺が前に出る。ロアス、牽制してくれ」
「了解だ」
ロアスは短く答え、鋭い蹴りで地を砕くように前進。狼の一体を横へ弾き飛ばした。
「リント、援護!」
「うん!」
幼狼は口を開き、光の粒子を含んだ冷気を吐き出す。狼の足元が瞬時に凍りつき、動きが鈍る。
そこへシアンが切り込んだ。
「はあっ!」
氷華刃が振り抜かれ、白い軌跡を描く。刃は触れた瞬間に氷の花弁を散らし、狼の肩口に深々と切り込んだ。氷結効果が走り、傷口から冷気が広がっていく。
「……っ、これは!」
想像以上の手応え。今までの氷魔法では得られなかった、確かな“斬撃”の感覚があった。
もう一体が背後から襲いかかる。
「リント!」
「わかってる!」
リントが地面に小さな氷柱を走らせ、シアンの背後を守る。そこへロアスが飛び込み、蹴りで狼の顎を跳ね上げた。
「今だ!」
仲間の声に応じ、シアンは氷華刃を両手で握り直す。魔力をさらに注ぎ込み、刃先が青白く輝いた。
「氷華刃――連斬!」
流れるような二連撃。最初の一撃で相手の前脚を裂き、次の一撃で胸元を斜めに切り裂く。花弁の残光が宙を舞い、狼は声を上げる間もなく雪原へ崩れ落ちた。
残る一体は怯んで後退する。だがロアスが追い討ちをかけ、リントが小さな光弾を飛ばす。最後にシアンの氷華刃が閃き、狼は音もなく氷片となって砕け散った。
◇
戦闘が終わると、雪原に静寂が戻った。
「……っはぁ、すごいな。氷華刃、ここまで強いとは」
シアンは肩で息をしながら、手の中で消えていく刃を見つめる。冷たさではなく、確かな温もりが胸に宿っていた。
「お前、ようやく魔法使いらしくなったな」
ロアスは淡々とした声で言いながらも、わずかに口元を緩めた。
「シアン、かっこよかった!」
リントが目を輝かせ、尻尾を全力で振り回す。
「ありがとう。でも、俺一人じゃ無理だったよ。ロアスの蹴りも、リントの援護もあってこそだ」
そう言って二人に微笑むと、胸の奥にじんとした感覚が広がった。
◇
マイホームに戻った頃には、すでに夕陽が差し込んでいた。
かまどに火を入れ、手早く作ったのは温かなシチュー。氷魔法で下処理した肉と野菜を煮込み、優しい香りが部屋を満たす。
三人で卓を囲む。戦いの疲れも、笑い声と湯気に溶けていった。
「よし、次はもっと大きな敵にも挑んでみよう」
シアンはそう呟き、新たな一歩を確かに踏み出した。
氷華刃の実戦デビュー。ロアスとリントとの三位一体の戦いが描けました。次回も18時更新です。




