第80話 氷の選択と、新たな一歩
選ぶということは、時に自分の未来を決めることでもある。
迷いと覚悟、そのどちらも抱えながら挑む物語です。
「一等料理師……」
ギルドで授与された証を見下ろし、シアンは胸いっぱいに息を吸った。料理職のランクアップは大きな達成感を与えてくれた。けれど、その勢いはすぐ次の目標を呼び覚ます。
「……氷魔法も、このままランクアップを目指すべきだよな」
王都の石畳を歩きながら、心の中で繰り返す。氷魔法には二つの分岐がある――戦闘強化か、支援強化か。
自分はこれまで、包丁と体術で近接戦闘をこなしつつ、氷魔法を攻撃と補助に使ってきた。けれど、もし支援に特化すれば、ロアスやリントをさらに強く後押しできるだろう。
「俺は……戦う側か、それとも支える側か」
ふと胸が重くなる。ロアスが果敢に蹴りを放ち、リントが幼いながらも冷気で仲間を守る姿が脳裏に浮かぶ。その隣で自分は、どうあるべきか。
だが、最後には笑みがこぼれた。
「一緒に戦いたい。俺も前に出て、肩を並べて成長していきたいんだ」
その決意を胸に、戦闘系の氷魔法を選択した。
◇
試験会場は、王都郊外の訓練場。雪の結晶を象った魔法陣が淡く輝き、冷気を纏う空間が広がっている。
試験官NPCが告げる。
「第一課題――制限時間内に、氷魔法のみで標的を討伐せよ」
現れたのは氷耐性を持つ魔獣。爪が鋭く、俊敏な動きで迫ってくる。
シアンは咄嗟に《フロストランス》を放つ。だが、直撃しても氷が砕け散り、思ったよりダメージは通らない。
「くそ……効きにくい!」
焦る心を抑え、魔力操作で氷を凝縮させる。放った《アイスバースト》が地面を覆い、動きを鈍らせた隙に、続けざまの《クリスタルスピア》で貫く。魔獣は霧氷の中で崩れ落ち、課題はなんとか達成となった。
汗が滲む額をぬぐう暇もなく、二つ目の課題が始まる。
「第二課題――氷魔法を用い、与えられた陣地を防衛せよ」
小さな石造りの拠点に、次々と模擬モンスターが襲いかかる。剣も包丁も使えない。許されるのは氷魔法のみ。
「――やってやる!」
両手を広げると、氷壁が音を立てて伸び、敵の進路を塞ぐ。突破しようとする影には《スノーバインド》を絡ませ、足を凍結させて動きを封じる。
しかし数が多く、次第に陣地へ迫ってきた。
「耐えろ、俺の魔力……!」
魔力が削られ、視界が揺らぐ。それでも歯を食いしばり、氷を砕かれても新たに築き、風雪で追い払う。
そして最後の一波をしのぎ切った瞬間、鐘が鳴り響いた。
――合格。
その声に、シアンは力が抜けるように膝をついた。
魔力をほとんど使い切り、呼吸は荒い。けれど胸の奥には確かな実感があった。
「俺は……前に立ち、戦う魔法使いでいく」
氷魔法が、さらに進化する瞬間だった。
戦闘試験を乗り越え、氷魔法の道を選んだシアン。次回も18時更新です。




