第79話 料理師の試練と、新しい可能性
成長のために越えなければならない壁がある。
その壁を越えた先に、新しい景色が広がる――今日はそんな物語です。
「ここが……料理職のランクアップ試験か」
王都の一角。石造りの広場を抜けた先に、小さな調理場を兼ねた建物があった。
「料理師ギルド」。その看板を掲げる扉を開けると、香ばしい匂いが一気に広がる。
迎えてくれたのは、白いコック帽をかぶったNPC――マスターシェフのエリアスだった。
「お前が挑戦者か。ならば我が厨房で、腕を示してみせろ」
重々しい声に背筋が伸びる。
課題は三つ。
一つ目は、制限時間内に決められた食材をさばき、基礎の包丁技術を示すこと。
二つ目は、ギルドが指定した料理を正しい手順で再現すること。
そして最後に、審査員NPCへ振る舞い、味で合格を勝ち取ることだった。
「……基礎からか。なら、やるしかないな」
最初の課題は大量の魚の下処理。氷魔法で瞬時に身を締め、丁寧に刃を入れていく。
しかし途中で骨を残してしまい、減点を告げられる。
焦りを抑えながらも、何度も繰り返すことで少しずつ精度を上げていった。
二つ目の課題は「王都風シチュー」。
小麦粉を炒め、香味野菜を刻み、肉を煮込む。火加減が難しく、少し焦げそうになったが、ロアスとリントの声援に助けられ、なんとか整える。
「最後は……味だな」
三人の審査員NPCの前に皿を置く。白濁のスープに野菜と肉が浮かび、湯気が立ち昇る。
ひと口味見した審査員は目を細め、静かにうなずいた。
「合格だ」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
――システムメッセージが表示された。
【職業ランクアップ達成:料理師 → 一等料理師】
【新機能:屋台・店舗経営が可能になりました】
【解放:中級食材・専用調理器具の使用許可】
「ついに……屋台が持てるようになったのか」
目の前に広がる可能性に胸が高鳴る。
屋台で仲間や他プレイヤーに料理を振る舞う光景が、鮮明に浮かんだ。
ロアスは腕を組み、いつもより満足そうに頷いている。
リントは「早く屋台! 早く!」と、はしゃぎながら尻尾をぶんぶん振っていた。
試練を越えた先には、確かに新しい景色が広がっている。
シアンは深く息を吸い込み、次の一歩を踏み出した。
試験は苦戦しましたが、その分、達成感もひとしおでした。
次回は18時更新です。




