第72話 解放された王都と、新たなる門出
イベント後の静かな時間も束の間。ゲーム全体に激震が走る運営アナウンスが届く。変わりゆく世界で、プレイヤーたちは何を選び、どこへ向かうのか──。
「……王都、解禁?」
ログインして数分後、シアンは浮かび上がったワールドアナウンスの文字を見つめた。
《【重要】王都“ラディアント・ベイル”への通行が解禁されました!》
《各地の転移石が接続開始》
《職業ランクアップ解放、王都にて特定条件を満たすことで可能となります》
「ついに来たね」
声に応じるように、足元にいたリントが短く鳴いた。小柄な白銀の幼狼。その毛先が揺れるたび、うっすらと霧氷が舞う。氷と光の二属性を宿す彼は、先日孵化したばかりのパートナー。まだ小さいが、冷気を察知して危機を知らせる《固有反応:零紋》を持つ頼もしい存在だ。
「王都ってことは、料理職も……何か変化があるかも」
シアンはステータス画面を開いた。自身は氷属性魔法に特化した攻撃職と、生活職である料理師を兼ねたプレイヤーだ。戦闘も生活も楽しむ、自分らしい遊び方を選んできた。
画面をスクロールすると、職業欄にうっすらと「Rank Up Possible」の文字が点滅していた。
「やっぱり、条件付きか。王都でしかできないようになってるんだな」
すぐさまフレンドリストを開き、よく情報を集めているプレイヤーの投稿を確認する。掲示板では、すでに王都にたどり着いた先行プレイヤーたちによる報告が飛び交っていた。
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《王都、桁違いに広い。マップ3層構造になってるっぽい》
《王立図書館で魔法スキルの進化先が選べる》
《料理職の派生もある!“専属シェフ”や“野外調理師”などに分かれるみたい!》
《NPCが完全に別格。反応がリアルすぎて怖いくらい》
《王都の討伐依頼、今までと比べ物にならない》
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「職業の分岐、あるんだ……!」
シアンの目が輝いた。料理職が戦闘職と並ぶほどの派生を持つとは思っていなかった。料理職の上位職、そこでは何ができるのか。バフ効果を上げたり、戦闘支援に特化した食事を作れるようになったりするのだろうか。
「魔法の方も気になるな……氷の派生系って、どんなのがあるんだろう」
自分の魔法構成は、冷却・凍結・吹雪といったコントロール寄り。だが、今後はさらに威力を伸ばすか、あるいは補助特化にするかの選択肢が現れるのかもしれない。
「よし……決めた。まずは転移石を探して、王都に向かう」
周囲を見渡す。朝の静けさを湛えた街の片隅。ギルドの掲示板には、すでに王都絡みの依頼が貼られ始めていた。
「でも、その前に情報収集しておこう。行き当たりばったりじゃ、王都では通用しなさそうだしね」
リントがふわりと尻尾を立てて、すでに歩き出していた。
その姿を追いながら、シアンもまた、王都という新天地に向けて一歩を踏み出す。
新たな魔法、新たな料理、そして新たな出会いがきっとそこに待っている。
いよいよ、王都編がスタート。
次回、第73話は明日18時更新予定です!職業ランクアップの条件とは──?お楽しみに。




