第7話 ラビット討伐と、霧の中にいた気配
ギルドの掲示板から「ラビット討伐依頼」を選んだシアン。
初めての“対モンスター連戦”で氷魔法の難しさと向き合います。
そして――霧の中で、何かが彼を見ていました
掲示板で目に留まったのは、ラビット――小型の野兎型魔物の討伐依頼だった。
初心者向けと書かれていたが、注意書きには「集団で現れるため、油断は禁物」とある。
「氷魔法の練習には、ちょうどいいか」
そう思って依頼を受け、草原のさらに奥へと足を運ぶ。
そこは、木立が少し増え、風が抜けにくくなる場所。
午後になって、遠くにうっすらと霧が出始めていた。
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視界の先で、白い毛並みのラビットが跳ねる。
素早い。動きが読みにくい。
そして、二匹、三匹と、徐々に数が増えていく。
「《アイスランス》」
詠唱とともに放たれた氷の槍は、一本目をかすめて地面に突き刺さる。
足元の草が凍りつき、白い霜が瞬時に広がる。
《スキル:詠静 発動》
魔力制御補正+命中精度上昇+集中状態へ移行
「……落ち着け」
魔法の流れに意識を合わせる。
周囲の音が、わずかに遠のいていく。
「《クリスタルショット》」
命中。氷の矢が直撃し、一体が凍りながら倒れる。
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しかし、すぐに別の個体が跳ねて横から迫る。
距離が近い。詠唱が間に合わない。
「っ……!」
包丁を抜き、思わず構える。
斬る――のではなく、跳ねる体を払いのけるように、横へ弾いた。
スロウの付加効果が発動し、動きが鈍る。
もう一度魔法を撃つ。
次も、次も。
……だが、少しずつ足が重くなっていく。魔力も、集中も、すり減っていた。
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その時だった。
急に、風が止んだ。
霧が濃くなる。音が消える。
視界の隅に、何かが――。
白。小さな影。
こちらをじっと見ていた気がした。
「……?」
気配は一瞬で消えた。
次の瞬間、草を踏みしめる音とともに、ラビットが駆けてきた。
気を取り直し、包丁を逆手に構える。
冷気の魔力が、自然と刃に集まっていた。
「……氷打ち刻み」
三連の斬撃とともに、冷たい風がラビットを包み込む。
氷の花びらのような結晶が、空中にふわりと舞った。
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依頼の討伐数を達成し、草原の風景に戻る頃――
霧だけが、まだ少し残っていた。
「……気のせい、か」
けれどどこか、見られていた感覚だけは、確かに残っていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は初の連戦と、氷魔法の実戦描写。
次回、ついに“名前を持たないその存在”との接触が訪れます。
ぜひまた読みに来てください。




